Anthropic CEOの失業増加発言が話題になる中、約340枚のレポートをチェックしながら、米国が同盟国のソブリンAIを支援する意味を考えた一週間(2025年6月6日配信版)

目次

本編動画

2025年6月6日に、以下の目次で「ほぼ週刊、AI動向のイマとミライ」動画を配信しました。

0:57 (1)今週のトピック
4:18 (2)グラフから見るAIブームの凄さ(米VCによる約340枚のレポートより)
26:05 (3)著名投資家2名が捉えるAI&クリプトの最新動向
36:57 (4)DeepSeekの新バージョンが好評
37:54 (5)オープンソース型ブラウザユースの今
45:23 (6)なぜ今!? Anthropic CEOが「失業増加」発言

各チャプターの概要は以下の通りです。

(1)今週のトピック  

(2)グラフから見るAIブームの凄さ(米VCによる約340枚のレポートより)
・米VCのBOND社による約340枚のレポート「Trends – Artificial Intelligence」より
https://www.bondcap.com/reports/tai
・言及しているデータ
 - 米国でのコンピュータ関連特許の付与件数(p40)
 - デバイス数(p12)
 - GoogleとChatGPTでの検索数(p20)
 - ChatGPTのユーザー数(p55)
 - ChatGPTとGoogle検索のグローバルデスクトップユーザーのリテンション率(p84)
 - データセンター容量(p121〜122)
 - 地域別データセンター電力消費量(p128)
 - LMSYSチャットボットアリーナにおける最先端AIモデルの性能評価(p142)
 - XのGrokへのアクセス数(p204)
 - 次世代型オールインワン企業プラットフォームの想像(p227)
 - 米国産業の企業数と市場シェア(p230)
 - AIのユースケース(p245)
 - 主要6LLMにおけるグローバル月間アクティブユーザーの推定シェア(p262)
 - 時価総額に基づく世界の上場企業ランキング(2025年5月15日時点と1995年12月31日時点の比較)(p274)
 - 国別累積大規模AIシステム(p281)
・ここにきてChatGPTが急伸している主な理由(by. OpenAI o3調べ):①モデルの全面置換、②Sam AltmanのTED発表、③バイラル機能(画像・音声)、④対応チャネルの拡大、⑤検索・ショッピングなど生活機能の追加
・ChatGPT急伸の今後の見通し:企業導入の第2波、ハード統合の加速、競合との差別化
・AI型SaaSのビジネスチャンス:“フラグメント市場 × SMB 大量”は AI SaaS の金脈、中規模専門職は“AI+プロセス IP”で差別化、寡占産業では“エンタープライズ・チャネル”が必須  

(3)著名投資家2名が捉えるAI&クリプトの最新動向
・Bill Gurley氏とBrad Gerstner氏による「Bg2 Pod」チャンネル:AI, Middle East, China, Tariffs, Recon Bill, Invest America | BG2 w/ Bill Gurley & Brad Gerstner
https://www.youtube.com/watch?v=K2cpSUpdIOs
・米国が同盟国のAIインフラ構築を支援:米国はAI技術の普及に関して、「管理」と「防止」というこれまでのワシントンのアプローチから、「パートナーシップ」と「オープン性」というシリコンバレーのアプローチへと大きく転換(成果として中東での大規模なAI関連の取引の成立)
・中東は、安価な電力(天然ガス、太陽光、原子力)、地理的な近さによる低遅延(欧州、インド、中東向け)、労働力のコストなど、データセンターを設置する上で競争上の優位性を持っている
・AIの格差拡大の是正案:Brad Gerstner氏が立ち上げた非営利団体による取り組みで、富の格差に対処するため、米国で生まれた全ての子供に1,000ドルのシード投資口座(S&P 500に投資され、401kのように機能)を提供するというもの。この口座には、企業や親などが追加で貢献でき、18歳までに5万ドル、30歳までに15万ドル程度になることを目指す(超党派の支持を得ており、財政調整法案の下院案に含まれたとのこと)
・金融システムへのクリプト(暗号資産)導入の動き:SEC(米証券取引委員会)委員 Hester Peirce 氏のスピーチ「A Creative and Cooperative Balancing Act」(2025 年5 月8 日)より。米ドル建てステーブルコインを連邦レベルで包括的に規制しようとする初めての上院法案(「Genius Act」法案)が5月19日に本会議動議を66–32で可決し、最終採決に進む見通し  

(4)DeepSeekの新バージョンが好評
・DeepSeek R1の新バージョン(R1 V2)。6,710億パラメータ、370億アクティブパラメータを持つ大規模モデル
・「マイナーアップグレード」と呼ばれているが、アーキテクチャの変更はないものの、実質的には非常に大幅なアップデート ・計算資源の増加とアルゴリズムの最適化(特にポストトレーニングでの強化学習技術の洗練)により、そのパフォーマンスは著しく向上
・総合性能は、OpenAIの03やGemini 2.5のような主要な最先端モデルに「近づいている」と評価されている(by. NotebookLM)  

(5)オープンソース型ブラウザユースの今
・Anthropicのcomputer useが先行して2024年10月に発表されたが、実際はまだまだ使い物にならない状況だった。OpenAIは2025年1月にOperatorをリリース。GoogleはJarvisというコード名で開発中
・Magnus Müller氏ら4人がオープンソースとしてcomputer useプロジェクトを開始
・「Hacker Newsでのローンチや、セットアップの容易さ(コマンド2つ)、そして特に、求職活動や食料品の買い物などを自動化するデモビデオがXで拡散されたことが爆発的な成長(5ヶ月でGitHubスター6万以上)につながりました。他のプロジェクト(例: Manis)がbrowser useのコアコードを利用したことも認知度向上に貢献しました」(Magnus Müller氏)
・各ステップでLLMに約8,000トークンと画像を送るため、計算負荷は比較的高いが、より安価なモデル(Llama 4、DeepSeekなど)を利用することでコストを削減できる。複数のエージェントを並行して実行するとコストはドル単位になるが、人間のコストよりはるかに安価
・初期の顧客には、QAテスト企業(ウェブサイトテストの自動化)、フォーム入力の自動化(PDFデータからのシステム入力など、多くの人が嫌がる反復的な作業)の企業などを想定
・「今後の開発の焦点はエージェントの信頼性向上です。現在はベータ版である「workflow use」で、決定的なスクリプトと、スクリプトがウェブサイトの変更などで中断した場合にAIがエラーを修復して続行する機能を組み合わせることで、信頼性を高めることを目指しています」(Magnus Müller氏)  

(6)なぜ今!? Anthropic CEOが「失業増加」発言
・「今後1〜5年で、AIによってエントリーレベルのホワイトカラー職の最大50%が消える可能性があり、失業率は10〜20%に跳ね上がるかもしれない」(Dario Amodei氏、5/28) Behind the Curtain: A white-collar bloodbath
https://www.axios.com/2025/05/28/ai-jobs-white-collar-unemployment-anthropic
・日本語メディア(マイナビTECH+、Livedoor News)なども報道し、センセーショナルな「50%消失」数字だけが独り歩き
・YouTube「All-in Podcast」チャンネルの反応 AI Doom vs Boom, EA Cult Returns, BBB Upside, US Steel and Golden Votes
https://www.youtube.com/watch?v=O_AfZ6J0ToE
・「AIが経済に大きな影響を与えるのは事実。しかしこれほど具体的な数字は見たことがないし、注目を集めるのが目的としか思えない。問題はなぜ注目を集めようとしているのか、だ」(David Sacs氏)
・「Google、Metaは資金調達をする必要がない。OpenAIとAnthropicは資金調達のための物語が必要。それが表現の誇張につながるのでは」(Chamath Palihapitiya氏)
・「AIの国際的な規制を確立しようというEffective Altruismというグループがある。このグループの設立に関係した人物がAmodei氏の妹と結婚している。AIの国際的な規制を確立するという考え方はバイデン政権の考え方。同政権でこの考え方を推進していた人物の何人かが今、Anthropicで働いている」(David Sacs氏)

登壇者情報

遠藤 太一郎

株式会社カナメプロジェクト CEO
国立大学法人東京学芸大学 教育AI研究プログラム 教授

AI歴25年。18歳からAIプログラミングを始め、米国ミネソタ大学大学院在学中に起業し、AIを用いたサービス提供を開始。AIに関する実装、論文調査、システム設計、ビジネスコンサル、教育等幅広く手がけた後、AIスタートアップのエクサウィザーズに参画し、技術専門役員としてAI部門を統括。上場後、独立し、現在は株式会社カナメプロジェクトCEOとして様々なAI/DAO/データ活用/DX関連のプロジェクトを支援する。国際コーチング連盟ACC/DAO総研 Founder等

https://kaname-prj.co.jp/

湯川 鶴章

株式会社エクサウィザーズ AI新聞 編集長

米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

https://community.exawizards.com/aishinbun

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この記事を書いた人

人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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