500 Startups創業者が語る「成功する起業家の要因」と「日本が学ぶべきこと」

 世界中のテックイノベーションを牽引する地域として、長らくその存在感を示してきたシリコンバレー。今でこそ世界中で「スタートアップエコシステム」の重要性が認識され、その形成に向けて産官学連携が各所で勃興しているわけだが、その“お手本”としての型/仕組みを構築していった地域として、現在に至るまで起業家をはじめ様々なステークホルダーが大いに参考にしているのが同地と言えるだろう。

 そんなシリコンバレーとともに成長してきた人物の一人が、起業家でありエンジェル投資家のデイブ・マクルーア(Dave McClure)氏だ。同氏は、世界中のスタートアップ企業に小額投資するベンチャーキャピタル「500 Startups」の創業者にして、エンジェル投資家の中でもテクノロジーにフォーカスした「スーパーエンジェル」の一人として知られている。現在はPractical Venture CapitalのGeneral Partnerとして活動している。

 今回はそんなマクルーア氏に、今に至るまでの道のりや投資活動をする際のアドバイス、起業家に求められる条件など、経験に裏打ちされた具体的なエピソードを交えて語っていただいた。

 インタビューアーは、サンフランシスコを拠点としてWeb3業界への投資活動やリサーチを進め、独自のグローバルネットワークを着実に拡大させてきた、ホットリンク グループCEO/Nonagon Capital Founding Partnerの内山 幸樹氏が担当された。

写真右:デイブ・マクルーア氏(500 Startups 創業者 / Practical Venture Capital General Partner)、写真左:内山 幸樹氏(ホットリンク グループCEO/Nonagon Capital Founding Partner)
目次

PayPalでの運命的な出会い

内山:今日は会えて光栄です。デイブはシリコンバレー、海外のIT業界では名が知られていますが、日本のビジネス業界で詳しく知っている人はそこまで多くないかと思います。まずは簡単に自己紹介をしていただけますか?

デイブ:ベンチャーキャピタリストのデイブと申します。1989年頃にシリコンバレーにやってきて、そこから30年。いまやオジサンになってしまいました(笑)。

最初は、ソフトウェアエンジニアのプログラマーでしたが、後に小さな企業を起業し、買収され、その後PayPalで働き、さらにその後エンジェル投資を始めました。投資の世界に入ってから常にアップダウンがありましたが、現在は私が経験した中でも3番目に入るほどの不況期に入っていると思います。少し前ですが、シリコンバレー銀行の状況が急速に変化し破綻した報道には、誰もが驚いたんじゃないでしょうか。

ただ、今後の状況に関して、私は楽観的に見ています。過去30年間、シリコンバレー内の起業に身を置いて、常に立て直す方法を見つけてきました。また誰か“尖った”人たちが、風穴を空けていくことでしょう。

内山:僕も以前はエンジニアでした。そして、起業家としての道を歩み、現在はWeb3業界に投資しています。「投資家」として、今回デイブから学べたらと思うのですが、そのトピックに入る前に、なぜ「500 Startups」を始めようと思ったのですか?

デイブ:私が学生時代に学んだことの多くは、数学やコンピュータサイエンス、エンジニアリングでした。実際、会社でエンジニアとして働きはじめたんですが、シリコンバレーにいることで「起業したい」という思いが徐々に湧いてきたんですね。

その後、起業家になると、今度は投資について学びたくなりました。PayPalにはさまざまな起業家・投資家がいて、学び、成長するには幸運な環境でした。PayPalを辞めた2003年か2004年頃から投資を始めたのですが、最初は「エンジェル投資家」として、他のスタートアップのために尽力していました。

起業のタイミングでリーマン・ショック

デイブ:一件あたりの投資金額は小さなものでしたが、後にLinkedInに買収された「Slideshare」や、Intuitに買収された「Mint.com」などという会社の創業者と知り合い、一緒に成長させていくことができたのは嬉しかったですね。

その後、2008年に自分の会社を始めようと思い立ちました。ですが残念ながら、リーマン・ショックと世界的な金融危機が同時期に襲ってきてしまい、VCファンドを始めるのに最適な時期ではありませんでした。それを知った「Founders Fund」にいたショーン・パーカー(ナップスターなどを設立した実業家)が私を雇ってくれて、そこで300万ドル程度の予算をもらい、大きな投資を始めることができました。

そして、2010年に満を持して「500 Startups」をスタートさせました。社名は500ものスタートアップをサポートするという意味で、かなり目標が大きいことに周りの人からは笑われました(笑)。

内山:投資ファンドを立ち上げることは、先が未知数なスタートアップを立ち上げるぐらい難しいと思います。

デイブ:そうですね。ただ私は、「VC会社を起業した投資家」という立ち位置で、誰とも被らないポジションにいたのは幸いでした。

シリコンバレーに関われない“若き才能”にチャンスを与えたかった

内山:他のファンドとは、差別化が必要ですが、「500 Startups」のビジョン・ミッションは何だったのでしょうか?

デイブ:私の出自の話をさせてもらうと、生まれはウェストバージニア州なのですが、そこには著名な起業家がいませんでした。さらに、ビジネススクールにも通っておらず、MBAも取得していなかったので、エリートが集まるシリコンバレーに来た当初は「よそもの」という感情で占められていたんですね。だからこそ、反骨心が生まれ、成功しようという気持ちも人より強かったと思います。

アメリカには、そんな「アンダードッグ」、“これから強くなっていく可能性を秘めた闘犬”がまだまだ存在しており、彼らに投資していく必要性があると感じていました。シリコンバレーのアイデアを、不遇な環境にいる人たちに届けようと。

内山:興味深いです。

デイブ:もうひとつは、グローバルに投資していくこと。これも大きなビジョンでした。シリコンバレーで起こることが、今後ヨーロッパの一部やイスラエル、中国など、世界の他の地域にも波及していくに違いない。若く、人口が多く、ビジネスのチャンスも多い地域に積極的に関与していこうとしたんです。

内山:なるほど。

デイブ:ちょうどその頃は、VCとして投資する人がまだまだ少なかったこともあり、様々な企業のポートフォリオを構築することができたと思います。ただ、成功する可能性は低く、シードステージで100社の投資を開始したうち、30%がシリーズAに到達、さらにそこから30%〜40%がシリーズB以降に到達する可能性があります。つまり、「100社のうち5〜10社」しか大きな成功を収められません。スタートアップはやはり相当厳しい世界です。

スタートアップに投資する上での見極め方

内山:デイブはすでに30年以上の投資経験がありますが、スタートアップに投資するとした場合、どのような点に留意していますか?

デイブ:その会社が事業で何を解決しようとしているのか、そして解決できるだけのポテンシャルがあるかどうかに注目しています。製品開発力、エンジニアリング、デザインを軸に、マーケティング、セールスの部分なども見ています。

内山:それを判断するのは、なかなか難しそうですね(笑)。

デイブ:そんなときは、起業家の過去の実績に着目しましょう。成功しているに越したことはないですが、失敗しているビジネスのほうが多い。ただ、常識外の事業であれば、未来もあるのでは無いかと考えます。

内山:Web3などの新興技術も話題になっていますよね。デイブはどう感じていますか?

デイブ:私は少し慎重に見ています。もちろん、暗号通貨とWeb3、分散型アプリケーションの構築自体は、非常に重要な技術だと思います。新しい波のように捉えられていますが、10年以上前からすでに存在していて、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を扱うスタートアップに、たくさんのお金が注ぎ込まれました。そこからの激動は、みなさんもご存知の通りでしょう。

まだ多くの人が仮想通貨でお金を稼ぐことに躍起になっていますが、私自身はお金を失うことのリスクがまだまだ大きいと思っています。その分野で、しっかりと成功する企業の例を作らなければなりません。

そんな中、「ステーブルコイン」と呼ばれる、米ドルなどの資産と価格が連動しており、価値が安定している仮想通貨の一種も出てきました。信頼性は高いですが、銀行の業績次第で変動があるので注意が必要です。少し前になりますが、シリコンバレーバンクの破綻のニュースがありました。突然のことで、誰も予測できなかったですね。

“投資の達人”の背中を見て成長してきた

内山:私自身、Web3スタートアップに投資をしているのですが、そこで気になるのが「個人的な投資」と「企業としての投資」の違いです。

デイブ:会社のお金を預かるため、責任感が大きく変わってきます。私は、経験豊富な人たちの背中を見て学んでいました。シリコンバレー伝説の投資家とも言われるロン・コンウェイ、ファースト・ラウンド・キャピタルのジョシュ・コペルマン、アンコーク・キャピタルのジェフ・クラヴィーア。彼らのおかげで、投資を大いに理解することができたと思っています。

のちに、私はファウンダーズ・クラブに参加し、ショーン・パーカー(初代Facebook社長)らと一緒に働きました。そして段々と、自分なりの投資スタイルを確立したいと思うようになりました。

あなたは、今少しの投資額かもしれないけど、契約や法律の構造を理解していくことで、さらにスケールも大きくなっていくことでしょう。私たちも、最初のファンドは約3,000万ドルで、2番目のファンドは4,500万ドル、3番目のファンドは約8,500万ドルと、段階的に大きな金額にステップアップし、自分がやりたかったことを実現していきました。

いま、私は東南アジア、ラテンアメリカ、ブラジル、インド、アフリカ、中東、そして日本と、何百もの海外の企業に投資をしています。アクセラレータ(ベンチャー支援)プログラム、私たちの傘下のファンドへの投資など、すべてがうまくいくわけではありませんが、成功にいたるプロセスをこの目で見ることができています。

新しい技術の「未来予測」には時間をかけること

内山:とにかく「経験」をしていくことが大事なんですね。

デイブ:あなたは成功している起業家です。特定の分野において、多くの経験を積んできたと思います。自分が得意としていることを理解し、試行錯誤して投資を続けて行ってほしいです。

現代のスタートアップは、技術の進歩によって、資金調達をする必要も少なくなってきました。また、運用管理するためのバックオフィスプラットフォームも、簡単に設定できるようになっています。そして今、私たちは人工知能、AIなどの“新しい波”を体感しています。代表的なプラットフォーム「ChatGPT」は短期間で1億人以上のユーザーを獲得しています。それに可能性を感じた何百人もの人々が、新しいAIスタートアップを始めるためにシリコンバレーに飛び込んでいます。

内山:絶えずシリコンバレーでは、莫大な価値を生む技術が登場していますね。

デイブ:ええ。1960年代にはマイクロプロセッサチップ、1970〜1980年代にはディスクドライブやPC、1990年代から2000年代にかけてはインターネット、そして今はソーシャルメディアプラットフォーム、動画プラットフォーム、仮想通貨、AI。すべて世界を変えるものです。

そこに、たくさんのお金を投入するのは自然なことです。しかし、本当に素晴らしいものが何であるか、そして、何が“一時的なもの”であるかを正確に把握するには、時間が必要です。興奮のまま投資をする前に、自身の「理解」を深めて行くことが大切です。

「プロダクトマーケットフィット」とは

内山:これまでは投資の話がメインでしたが、今回は起業家側の話に移りましょう。あなたはたくさんの成功した起業家を見てきたと思いますが、成功する起業家の要因は何でしょうか?

デイブ:成功する起業家に、一連の属性はありません。バスケットボール選手を見ると、背の高い選手がいる一方で、小柄な選手もいる。また、パスやリバウンドが得意など、専門性を持った人もいます。異なる起業家が、異なる方法で成功していっています。

ただ、迅速にプロダクトを生み出し、顧客のフィードバックに基づいてブラッシュアップしていくことは、成功するための共通項かもしれません。それらをPMF(プロダクトマーケットフィット)と呼んでおり、すべてのスタートアップが模倣すべきパターンだと思っています。

過去20年間で最も大きな変化の1つは、イテレーティブモデル(最初はシンプルに作り、少しずつ肉付けしていく方法)が生まれたこと。AWSやGoogle、Microsoft Azureのようなプラットフォームがそれにあたります。20年前は、サーバーを自分で作成する必要があり、さらに非常に高価だったため、すべてを構築することは困難でした。しかし現在は、それらの製品を利用すればすべてをやる必要はありません。

おそらくWeb3やAIが普及するころには、起業家が仕掛けるビジネスのスピード感も増していくはずです。結果、業界全体がより速く、より低コストで、より大きな顧客を獲得していくことでしょう。

内山:そういったサービスを駆使して、会社をどのように管理し、構築するかがカギとなっていきそうですね。

女性起業家に投資を積極的に行ってきた理由

内山:デイブは女性起業家も数多く支援していますが、その動機はなんだったのでしょうか。

デイブ:母親が起業家だったことがまず一点あります。私にとって主要なビジネスの教材は、母親でした。書店を経営し、のちにワシントンDCの博物館で働いていました。非常に強く、自信に満ちた人物です。

また、シリコンバレーを筆頭に、起業家に白人男性が多かったことも理由のひとつです。ジェンダー、人種、環境によって苦労している人たちにチャンスを与えたかったのです。そうした人たちは勤勉で、一生懸命に働く傾向があります。彼らが、同じ境遇で夢見る人たちのロールモデルになっていってほしいと思っているんです。

内山:興味深い話ですね。

今、日本政府では、若い起業家が会社を立ち上げることを推進していますが、なかなかグローバルステージで成功することができていません。なにかアドバイスをいただけますか?

デイブ:私は日本人の女性と結婚しているので、そのことについては知っていました。言語や文化が重要ではない製品、例えば自動車を製造したり、ゲームのプラットフォームを作るのであれば、成功しやすいのではないでしょうか。日本は、移民が少なく、また日本人が海外に行くことも多くありません。他の言語や文化に熟知した人々を自国に受け入れることで、異なるアプローチが生まれてくるのも事実です。

アメリカが大きな優位性を持つのは、そうして世界中から人々が集まってくるからです。アメリカの人口の大半は、少なくとも2〜3世代前に他の地域から移住してきた人々です。それゆえ、多様なアプローチがあり、ときには混沌をもたらすこともありますが、異なる視点を持つことができます。

日本はもっと失敗に対して寛容になるべき

デイブ:日本には才能を持った人が多くいて、起業の機会もありますが、資本へのアクセスが困難であることも問題です。世界第3位のテック大国で、6,000億ドル以上の経済力を持っていながら、ベンチャーキャピタルのエコシステムはかなり小さい。おそらく70億ドル程度だと思います。

内山:才能の国外流出に思われるかもしれませんが、やはりもっと日本人は海外に出ていかなければなりませんよね。

デイブ:才能と資本を交換する、というのも良いのではないでしょうか。日本の起業家が海外に出て、日本の投資家が米国に資金を提供し、逆に米国や他の国の投資家が日本に来る。異なる視点からの情報や、意見交換が増えることによって、グローバリズムも加速するはず。私は、今年の後半に、多くの起業家や投資家を日本に招こうと思っています。

内山:ありがとうございます。では最後に、日本の皆さんへメッセージをお願いします。

デイブ:私は日本に対して特別な思いがあります。家族もいるため定期的に訪問し続けています。人々も食べ物も好きですし、多くのインスパイアを受ける特別な場所です。

だからこそ言いたいのですが、日本はもっと失敗に対して寛容になるべきだと思います。一度失敗しただけで、周りは“できない”というレッテルを貼ろうとする。良い起業家になるためは、“失敗に慣れること、失敗から回復すること”が条件です。

挑戦する起業家に対して、温かい目線を持ってほしいです。

内山:素晴らしいインタビューでした。デイブさん、ありがとうございました。

取材/文:Nonagon Capital

インタビューフル動画はこちら

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この記事を書いた人

人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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