いま、アフリカのWeb3が熱い!日本的コミュニティ作りが果たす役割とは 〜IVS2023 KYOTO レポート#2

 2023年6月28日〜30日に亘り京都市勧業館「みやこめっせ」および「ロームシアター京都」で開催されたアジア最大級の国際スタートアップ・クリプトカンファレンス「IVS2023 KYOTO / IVS Crypto 2023 KYOTO」。参加者数は1万人規模、最終的なサイドイベント数も150を超え、名実ともにエポックメイキングな空間となった。

 DAO総研によるレポート第2弾では、カンファレンスの中でもPRO PassとVIP Passのチケットホルダーのみが参加できる、「激アツ!アフリカ大陸はWeb3ネイティブな大陸になる」と題されたセッションについて見ていく。

  • 成田 葵(Emurgo Kepple Ventures, Director)
  • Akim(VeryLongAnimals, Founder/Artist)
  • 原沢 陽水(mycel, Co-Founder)
  • 品田 諭志(Kepple Africa Ventures, General Partner)※モデレーター
目次

アフリカで急増する“Web2.5”的スタートアップ

「大学生の頃からアフリカで仕事をしたいと思っていました」

 このように自己紹介を始めたのは、現在、Emurgo Kepple VenturesにてWeb3投資のディレクターを務める成田 葵氏。ケニアとナイジェリアを拠点にスタートアップ投資を進める「Kepple Africa Ventures」と、アフリカの新興産業革新に向けてCardanoブロックチェーンの標準技術基盤プラットフォームとしての地位確立を目指す「Emurgo Africa」のジョイントベンチャー企業だ。

 アフリカのスタートアップエコシステムが “国に必要なインフラを提供している様” に非常に感銘を受けた成田氏は、そのままKepple Africa Venturesにインターンシップとして飛び込み、現在はナイジェリアに居住しながら現職を務めているという。

 そもそもアフリカの暗号資産市場を見渡してみると、日本とは随分と環境が異なることが分かる。たとえばナイジェリアの法定通貨である「ナイラ(Naira)」は非常に不安定で為替がどんどんと下がっていることから、日本では一般的にボラティリティーが大きいと言われるビットコインの方がよっぽど安定していると認知されているのだという。また、アフリカでは古くからディアスポラが多いことから送金の需要が非常に強く、それ故に既存の社会システム下においては中間レイヤーの存在も大きなものになっている。だからこそ、暗号資産(特にステーブルコイン)を使うことで中間レイヤーを排除し、低コストでの送金等が可能となるわけだ。

 この2点がアフリカで暗号資産が注目されるようになった大きな要因だとしつつ、最近では「Web2.0とWeb3の橋渡しをするようなサービス」も増えてきており、そこにアフリカ市場の面白さがあると成田氏は続ける。

「最近私たちが投資した会社の例なのですが、Web2.0スタートアップのベンチャーデットと、DAOやトレジャリー等のようなWeb3領域のお金を繋ぐようなDeFiサービスが出てきています。いわゆる“Web2.5”と言われるようなスタートアップがたくさん登場しており、そこにアフリカの面白さがあると感じています」(成田氏)

ナイジェリア国民がもつ『明日は必ず良くなっていく』という強い気持ち

 成田氏の話に補足する形でモデレーターを務める品田 諭志氏(Kepple Africa Ventures, General Partner)も、「5年以上アフリカのスタートアップ市場をみている中で、ここ数年、Web3の登場により、面白いユースケースが出てきている」と続ける。

「私たちKepple Africa Venturesは2018年にアフリカで投資事業を始め、2021年までに20億円ほど投資しているのですが、投資先100社のうち実は15社がクリプト関連でした。一時期超ホットなクリプトマネーが世界から流れ込んできて、全く何の事業実態もないのに30億円を調達するスタートアップがでるなど非常に変な時期もあったのですが、そういうのも今はだいぶ落ち着いてきていて、かなりリアルなユースケースが生まれてきている状況と言えます。特にナイジェリアに関しては、国民はみんな超前向きでポジティブで、『明日は必ず良くなっていく』という強い気持ちで日々暮らしているので、すごく面白いと感じています」(品田氏)

ナイジェリア以外でも、品田氏の元にはアフリカ各国からWeb3にまつわる様々な相談が寄せられるという。先日はサントメ・プリンシペ民主共和国から、Web3のハブを作りたいとの相談が寄せられ、本セッションの登壇者全員を含めたメンバーで同国を訪問してきたという。写真はその時の様子(写真提供:品田 諭志氏)

 品田氏によると、アフリカ諸国の国民の大半はギグワーカーやクリエイターといった、いわゆる定職に就いていないライフスタイルであることから、多くの人がサイドハッスル(本業とは別で稼ぐ)しているという。それ故に、「超多数のサービスプロバイダーと超多数のユーザーをWeb2.0的なプラットフォーマーでつなごうとすると、一人ひとりをオンボーディングしていくのがめちゃくちゃ大変だし、またそのプラットフォーマーが思いっきりマージン抜くというところでいろいろと問題が起きている」という。このことから、スマートコントラクト等を活用した個人へのエンパワメントとの相性が非常に良いというのだ。

 また、これまでアフリカ諸国の資金ギャップを埋めていたのは主に銀行だけであって、「このプロジェクトがバンカブルかどうか」という銀行の基準でアセットファイナンスやプロジェクトファイナンス等を提供していたという。そこにトークンファイナンスの選択肢が生まれたことで、不動産事業やインフラ事業、資源開発事業など、様々な業界での応用が期待されているという。

ナイジェリアにコミュニティベースがあることの圧倒的な強み

VeryLongAnimalsの被り物をして、西アフリカ最大の民族集団の一つであるヨルバ族の衣装を着用しながら、サントメ・プリンシペの伝統的な仮面を手にセッションに登壇するAkim氏

 さて、クリプトに関する情報収集等をしたことのある人であれば、一度はこのピクセルアートを目にしたことがあるのではないだろうか。VeryLongAnimals(以下、ベリロン)の被り物をしているのは、同NFTプロジェクトのファウンダーであるAkim氏だ。今、このベリロンがナイジェリアで大人気のようで、「体感ではファン全体の5割ほどがナイジェリア人なのではないか」とAkim氏は説明する。

「ナイジェリアのコミュニティも一般的な欧米発プロジェクトと同様に、ものすごくエスタブリッシュメントなメンバーを集めて限定のクラブを作る、みたいなアプローチが多いです。一方で僕の狙いはちょっと違っていて、Web3人口が桁違いに多いナイジェリアだからこそ、コミュニティの人数もすごいボリューム感を狙うことができると思っています」(Akim氏)

 日本国内においてはNFTブームが落ち着き、またクリプト・ウィンターの現状も相まって、実際にNFT取引を行っている人口は1万人を切っているとの推計もある。一方でナイジェリアの場合は、先ほどの成田氏による背景もあって全人口に占めるWeb3人口の割合が相対的に非常に高く、NFT関心人口が数百万人単位でいると言われているような状況だという。実際にAkim氏がベリロンのWhatsAppグループを作成したところ、盛り上がるときは30分で500通知も届くこともあるような状況とのことだ。

ベリロン発のNFTコレクションは300を超えており、またコミュニティ発のゲームタイトルも20を超えているという
ナイジェリア最大の都市「ラゴス」で開催されたイベントシリーズの最終回の様子。集客エージェントやコラボも無く、オーガニックで80人ほどが来場したという。Akim氏が当日着用していた「ヨルバ族」の衣装は、このタイミングでコミュニティメンバーからプレゼントしてもらったという(写真提供:Akim氏)

「ベリロンって、コミュニティの人が自分で自由にゲームやコミュニティを作ることができるようになっていて、現状300以上のコレクションと20以上のゲームタイトルがここから生まれています。非常にWeb3っぽいIPの使い方だと思っていて、これらは主に日本で作られているのですが、ナイジェリアの人たちも積極的に遊んでくれています。DAOなどのWeb3コミュニティって、ツイートをするとか挨拶をDiscordに投稿するとか結構シンプルなアクションが多いと思うので、ハイレベル人材を集めようといった話ではなく、とにかく“人数勝負”だと思うんですよ。そういうことを全部踏まえると、アフリカで最大の人口規模を誇るナイジェリアにコミュニティベースがあるっていうのは大きなチャンスがあることだと思っているし、若い人たちを中心にコミュニティから物凄い熱量が生まれてくるっていうのが、非常に面白いところなんです」(Akim氏)

「お金ではなく、時間を頂く」という意識でいるべき理由

 Akim氏のコミュニティ運営の話を聞き、Emurgo Kepple Venturesの成田氏は「日本的なスティッキーなコミュニティの作り方をしている印象だ」と延べ、それが今後のアフリカでのエンタメ等のマネタイズにも関わってくると所感を述べる。

「たとえば私は音楽が好きなのですが、ナイジェリアやガーナから生まれたアフロビーツ(Afrobeats)というジャンルがありまして、このアフロビーツのアーティストで最もInstagramのフォロワー数が多い人が “Davido” なんです。2,700万人以上います。日本で一番Instagramのフォロワー数が多いのが渡辺直美さんと言われていますが、それでも1,000万人弱なので、その規模の大きさがお分かりいただけると思います。でも、実際にDavidoのコンサートに行くと、グッズを買おうと思ってもそもそもグッズ売り場というものがないんですよね。ここからも分かる通り、世界中で楽しまれている音楽ジャンルであるにも関わらず、アーティストの人たちは全然マネタイズできていないんです。Web3の仕組みを通じてもう少しアーティストに還元させることができたら、かなりポテンシャルがあるなと思っています。Akimさんがやっているような日本的なスティッキーなコミュニティ作りは、今後のアフリカ文化のマネタイズにおいて、かなり重要なのではないでしょうか」(成田氏)

ベリロンのシールを2枚、自身のパソコンに貼って作業をしている現地の学生さん達。ベリロンに対する反応も、日本では「面白い」みたいな文脈が多い一方で、ナイジェリアでは「クールだ」という反応が多く見受けられるとAkim氏は説明する(写真提供:Akim氏)

 日本の場合、かつてはお金を出してCDを購入し、カセットテープやCDR、MD、さらにはiPodなどの記録媒体等に入れて楽しむという消費活動を営んでいた。よって音楽にお金をかけるという文化が古くから根付いていたわけだが、アフリカにおいては最初から「音楽は無料で聴くものだ」という認識が広がってしまっているという。実際にKepple Africa VenturesでもSpotifyのアフリカ版といえる事業(Mdundo)に投資をしているのだが、ビジネスモデルとしては消費者からのマネタイズではなく、法人からの広告モデルで成り立たせていると品田氏は説明する。

「みんな通信料を払いたくないというところがあるので、無料Wi-Fiスポットに行って音楽をダウンロードしたいっていうニーズが大きいんです。そんな中、Mdundoでは、誰がどの曲をダウンロードしているのかっていうのが分かるようになっているので、ターゲット広告が打てるというわけです。それが基本的なマネタイズ手法になっていますね」(品田氏)

 これに重ねる形で、Akim氏も「ナイジェリアの人とかをターゲットにコンシューマーサイドをやるということが、お金ではなく時間を頂くことだ」と、自身の所感を述べた。

「特に若い人たちはお金が潤沢にあるわけではないのですが、その分時間がすごくあったりします。また外に出れば渋滞が酷く、外出すらなかなかできないという環境において、家の中でオンラインでコミュニティに参加できるのって、ナイジェリアの方にとってみたらすごく楽しいことなんですよね。お金じゃなくて時間をコミュニティで使ってもらうということによって、それを見た他国の人が『盛り上がっているな』と思い、そこからマネタイズもできるのではないかと思っています」(Akim氏)

各リージョンでの活動の役割を分化してみてはどうか

 mycel(Cosmosネットワークを使って分散型DNSの構築を目指すブロックチェーンプロジェクト)のCo-Founderを務める原沢 陽水氏も、現在東京とオランダの2拠点生活をして様々な市場展開を検討する中で、人口が多く、若者によるコミュニティ活動が活発なナイジェリア市場のポテンシャルに惹かれているという。

「先月ぐらいにAkimさんとオランダで喋ったときに、WhatsAppのメッセージが1日で1,000通を超えたりしているのを隣で見ていて、日本では絶対にこういうことが起きないだろうなと思いましたね。また、実用化の話だと、日本でビットコインのライトニングネットワークがあったところで銀行の送金の方がすごく安定しているので結局はどこまで広がるんだろう、という話がありますが、人が多くてリアルな送金需要があるところを考えると、アフリカのポテンシャルはすごいのではないかと思っています。アフリカでは実需と直接紐付いていているからこそ、そこから爆発的にトランザクションが生まれていくことがあり得るんじゃないかと考えています。なので皆さんがおっしゃる通り、ユースケースとして生まれてくるのはアフリカ、というのは十分あり得ることで、面白いなと思っています」(原沢氏)

 ナイジェリアをはじめ、多くのWeb3プロダクトのようにグローバル志向での展開を進めるにあたっては、各リージョンでの活動の役割を分化するのも戦略として有効だと、原沢氏は説明する。

 アメリカのように大きなファンドレイズをするのに適した地域もあれば、アフリカのように熱量のあるコミュニティの構築に適した地域もある。日本であれば、クリエイティビティを発揮するような役割が適しているのかもしれない。そんな形で、各リージョンによってやり方を変えるということが、今後ますます増えていくことが想定されると言うのだ。たしかに以前、DAO総研でStake Technologiesの渡辺創太氏にインタビューした時も、チームの役割を大陸ごとに分けているという話があったことが思い出される。

「日本で考えると、Web3プロジェクトの資金調達って、うまくいっても30億円くらいがギリギリだと思うんですよ。これが北米になると、いいプロジェクトであればそもそもの桁が変わってきます。サービス提供者とサービスの受け手という単純な構図ではなくなっているのがWeb3プロジェクトであるののと同様に、プロダクトにとっての各地域の重要性を分けて考えるのはアリだと思っています。今お伝えしたことが、皆さんがグローバル思考のプロダクトを出そうとするときの一つのフレームワーク/種になったらいいかと考えています」(原沢氏)

ケニアのReFiトレンドも面白い!

 最後に、普段はケニアにいるという来場者からの質問を受け、成田氏と品田氏がアフリカ諸国間のスタートアップ事情の違いについての所感をコメントして、セッションを締め括った。

「まずエジプトは暗号資産に対してかなり強い規制を敷いているので、Web3スタートアップはあまり出てきていないです。また南アフリカに関しては、大学のレベルも高く優秀な人材が集まっているため、アフリカから世界を狙えるWeb3スタートアップが出てくる可能性もあると思っています。ナイジェリアについては先ほどお伝えした通り、不安定な通貨や高い海外からの送金需要によって、決済や送金あたりが強いと感じています。そしてユニークなのがケニアですね。ケニアは特に環境意識の高い人が多い印象で、例えば欧米でMBAを取得した人がアフリカに行くとなると、まずはケニアに行ってクリーンテックのスタートアップを作ろうとする人たちが結構います。いわゆるReFi(Regenerative Finance:再生金融)の領域が活発になっているのが、ケニアの面白いところかなと思います」(成田氏)

「ここは本当にすごく面白くて、日本ではいろんな企業が『カーボンニュートラルをやります』と言いつつ、実際はインハウスでやろうとしてるので、そのままでは絶対に目標を達成することができず、どこかでカーボンクレジットを膨大に買う必要があります。そして、その時の供給地になるのがアフリカです。元が汚ければ汚いほどカーボンクレジットを作る意味があるわけで、そういう意味でもアフリカはr調理に木炭を使っていたり、森林伐採が激しかったりという環境なので、たとえば木炭をバイオ燃料で代替することによりカーボンクレジットの大きな供給元となりうるわけです。カーボンクレジットの生産地であるアフリカと、買い手の日本を繋いでいくうえで、カーボンクレジットのトークン化やモニタリングを含めたWeb3のソリューションを使っていく余地がどんどんと大きくなると言えます。ここも今後、かなり伸びていくと思っています」(品田氏)

取材/文:長岡 武司

IVS2023 KYOTO / IVS Crypto 2023 KYOTOレポートシリーズ

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この記事を書いた人

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