エチオピアの“土台”構築に向けて優秀な人材が集結。Dodaiはこれからすごい会社になるだろう

 アフリカで2番目の人口規模を誇るエチオピア連邦民主共和国で、電動二輪バイクの普及に人生を賭ける「Dodai Group, Inc」(読み方:どだい)の代表取締役CEO・佐々木 裕馬(ささき ゆうま)氏。前編では、同氏のDodai創業に至るまでの波瀾万丈な半生についてご紹介してきた。

エチオピア現地開催のピッチ大会にてプレゼンをする佐々木氏(撮影:K-PHOTO、提供:ICJ)

 後編の本記事では、まずはエチオピアという国、特に首都のアディスアベバの生活/経済事情等について簡単に説明した上で、Dodaiの具体的な事業内容やそれに付随するエキサイティングなストーリー、中長期的に目指していること、さらには他Dodaiメンバーが語る会社及び佐々木氏のリアルについてご紹介していく。

》前編はこちら

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目次

まずもって、「アフリカ」という雑な見方をするべきではない

エチオピアの首都・アディスアベバの中心街の様子

 今回The WAVEの取材クルーが訪問したのが、エチオピアの首都・アディスアベバだ。ここに佐々木氏率いるDodaiのオフィスがあり、また同社の電動二輪バイク製造工場もある。

 アフリカの国と聞くと、日本人の中には「経済が不安定で、治安が悪く、もの好きしか行かないような国」といったイメージを持つ人もいるだろう。だが実際にアディスアベバの地に降り立ってみると、想像をはるかに超えた、都市全体を覆う「ポジティブなエネルギー」に圧倒されることになる。

 人々の表情は一様に明るく、歩く時は下ではなく前を向いていて、街には建設途中の高層ビルが多数そびえ立っている。首都ということもあって車の往来も激しく、全体的に「今日よりも明日は良くなる」という前向きな気持ちで溢れているのだ。実際、世界銀行が発表するデータによると、エチオピア経済はコロナ禍こそ減速したものの、過去15年間で年平均10%のペースで成長を続けてきた国であって、まるで日本の高度経済成長期を彷彿とさせるような雰囲気を感じることができるだろう。

取材クルーが宿泊したホテルの近くにあるハンバーガーショップを訪れると、来店客用に用意された遊具類(この写真では輪投げ)を、来店客以上にスタッフの皆さんが楽しんでいるシーンを目撃した。結構混んでいる時間帯でもお構いなしのようだった。これはほんの一例だが、国全体にある「今日よりも明日は良くなる」の精神が心の余裕を生み出し、こういったちょっとしたシーンで随所に現れているのだと感じた。少なくとも日本でこういった行為を行うと、例えばX(旧Twitter)等SNSで叩かれる可能性がある。心の余裕という観点で、なんとも対照的な社会だと感じた瞬間だった。この写真の壁にある”Way you like it”は、私たち日本人の生き方/あり方に向けてのメッセージにも感じ撮ることができる気がする

 そう考えると私たち日本人は、アフリカそのものに対する一方的な先入観が強く、またアフリカという“非常に丸めた概念/単位”でこの地域の国および都市のことを捉えようとしすぎなのだろう。そこについては、Dodaiをシード段階から支援してるインクルージョン・ジャパン株式会社(以下、ICJ) 2号ファンド ジェネラル・パートナーの吉沢 康弘氏も、現地での取材時にこのように強調していた。

「例えばこれまでの日本の投資家を見ていると、往々にして“アフリカ”という雑な見方をしています。でも、それっておかしな話ですよね。日本も韓国もタイも同じアジア諸国の国として考えればいいでしょとか、ちゃんちゃらおかしいじゃないですか。それと同じで、あくまでエチオピアという国がどういうところで、何が必要で、この国の人たちにとって僕らがどういう存在かという、一歩踏み込んだ関係を作らないといけないですよね。少なくとも僕たちは、そのような視点でエチオピアという国を捉えています」(吉沢氏)

吉沢 康弘氏(ICJ 2号ファンド ジェネラル・パートナー)

Dodaiが電動二輪バイクで「勝てる」と見込むこれだけの理由

 アフリカ諸国の中には、例えばナイジェリアやアルジェリアのような産油国も存在するが、エチオピアに関してはそうではないので、同国のエネルギー国内消費の約4分の3近くは中東やアジア諸国から輸入される石油製品でまかなわれているという。

 そこに対しては、従来よりエチオピア政府の補助金がふんだんに活用されていたわけだが、特に2022年2月以降はウクライナショックの影響もあって世界的な石油製品の高騰があることから、政府の財政を圧迫。石油製品への補助金は段階的に撤廃されることが決定しており、それに伴って国内の石油製品価格も段階的に上昇している状況だという。例えばエチオピア貿易・地域統合省の発表によると、2022年6月のガソリン価格が1リットル当たり47.83ブルだったのに対して、2023年1月8日から適用されている価格は61.29ブル(約153円、1ブル=約2.5円 ※当時のレート)。半年余りで30%ほど上昇していることになる。2023年10月現在だとさらに価格は上昇し、80ブル近くになっているという。このように、同国の閣僚会議で燃料補助金の削減が決定されて以降、段階的な価格の吊り上げが行われているのだ。

 このような背景から、エチオピア国内は相応に深刻な石油不足に見舞われており、政府としても2022年にガソリン車輸入の全面禁止を発表している。

「二輪も三輪も四輪も、基本的には電動のものしかこの国には入ってこれなくなりました。ですから規制に関して、アフリカの中でいきなり進んだ国になったわけです」(佐々木氏)

 一方で電力に目を向けると、エチオピアはアフリカ諸国の中でも突出して電気料金が安いという。貧困層の電力へのアクセスを確保するため、ここについても政府から多額の補助金が出ているのだ。

「国内電力のうち95%は再生可能エネルギーです。つまり、電気が世界的に見ても安く、一方で石油価格はどんどんと上がっていくということで、どう考えてもこれからは電動モビリティしか考えられません。規制上は急に世界の最先端をいくことになったので、Dodaiはそこに強力に乗っかっていくという戦略です」(佐々木氏)

Dodaiの電動二輪バイク工場にて保管されている商品群。全てのバイクはこの工場内で製造されており、中国のOEMから輸入された部品が、専門のスタッフらによって手動で組み立てられている(撮影:K-PHOTO、提供:ICJ)

 一方で、人々の理解が追いついていない点に留意が必要だと、佐々木氏は続ける。どういうことかと言うと、このような市況を踏まえて、ここ1〜2年で主に中国資本のモビリティメーカーが安価な電動二輪バイクを大量に生産・販売しているという。値段が安いので人々は喜んでその電動二輪バイクを購入するわけだが、そもそもの質が良くないので、すぐに壊れてしまうのだそうだ。

 そうなると人々は「やっぱ中国系はダメだね」となるのではなく、「電動二輪バイクってダメだね」と判断してしまうリスクが多分にあるという。

「ですから我々はそれらと差別化するために、それらの粗悪な電動二輪バイクよりも価格が5〜6割高いけれども、質が3倍も4倍もいいモノを提供することにこだわることで、時間はかかりますが『Dodai=まともなモノ』というブランドを築くことにフォーカスしています。そのためにもDodai、日本のナショナルブランドで品質に関わる部分を担当していたメンバーを中心にクオリティアシュアランスの精鋭が揃っています」(佐々木氏)

Dodaiの電動二輪バイクのハード(筐体)開発/設計を主管するChuan Yee氏(Head of Hardware)。シンガポール国立大学で機械工学を専攻した後、日本にあるヤマハ本社で二輪車の車両操縦特性の解析フレームワーク、テスト計画およびプロトコルの作成に6年間従事してきた
Dodaiのサプライチェーン部門を主管するAlemseged Teklemariam氏(Supply Chain Manager)。オランダのビール醸造会社・ハイネケンをはじめ、複数のグローバル企業にてサプライチェーンやロジスティクス、ERP管理等にまつわる業務を担当してきた

 例えば同社では、国内の電動二輪バイクの中では唯一“リチウムバッテリー”を採用しており、一般的な鉛のバッテリーと比較して寿命は3〜5倍、またバッテリーの容量を他社の倍以上にすることにより一回の充電で2〜3倍の走行距離を実現することができるようになっている。

 2023年8月1日に発売開始した電動二輪バイクの初期ロットのうち、撮影クルーが到着した8月18日時点で同月の売上目標の94%が達成済みだったのだが、そこでの顧客はこのような機能性でのポイントをしっかりと理解して購入してくれているのだという。

工場にてバイクを組み立てている様子(提供:Dodai)

「この人たちにアフターセールスサービスをして、Dodaiの大ファンになってもらい、そこから口コミ等で広げてもらうというジャーニーを基本戦略と考えています」(佐々木氏)

もう30分遅かったら店舗はオープン直後に完全に潰されていた

Dodaiの電動二輪バイクを販売しているショールーム。ここに同社のセールスチームが常駐しており、来店客対応含めて販売を行っている(撮影:K-PHOTO、提供:ICJ)

 ここまでの内容を見ると非常に順風満帆でことが進んでいるように見えるだろうが、実際のところは、毎日ピンチとチャンスが交互に巡ってくるような状況だという。特に、政府関連の動向や手続きが毎回のハードルになると、佐々木氏は振り返る。

 例えば上の画像はDodai初の販売拠点であるショールームの様子なのだが、ここを開所するためには同国の事業ライセンスを取得する必要がある。事業ライセンスを取得しないで販売開始をすると違法になってしまうので、見つかり次第、即座の閉鎖を余儀なくされてしまうのだ。

 ここで問題なのは、多くの事業者が賄賂を支払って事業ライセンスを出してもらっているという手続き慣習である。当局担当者にとってはそれが一つのビジネスになってしまっており、逆に賄賂を渡さないことにはなかなか事業ライセンスを発行してくれないという状況になっているというのだ。

 しかし、佐々木氏は「絶対に賄賂を渡さない、合法なやり方のみで事業ライセンスを取得することに固執した」という。賄賂が前提になると、今後事業展開するたびになにかと支払うことが前提になるからだ。だが、ショールームオープンの予定日は刻一刻と近づいていく。

ショールームオープン当日の様子(提供:Dodai)

 2023年8月1日にオープンと告知し、販売の事前受付も開始する中で、7月31日時点でもまだ事業ライセンスは取得できていなかったという。

「もう本当にいろんな手段、いろんな合法な手を使って担当者に働きかけて、なんとか、ショールームオープン日に事業ライセンスを取得することができたのです。そしてライセンス取得から30分後に、当局スタッフがシャットダウンしに店舗にやってきました。そこで見せてやったんですよ、『ここにライセンスありますけど?』って。もう、超気持ちよかったです(笑) もしも取れていなかったら店舗もろとも完全にシャットダウンさせられていたので、間一髪でした」(佐々木氏)

Dodaiの経理を担当するTirhas Gebermaryam氏。自身の担当の枠を超えて、面倒な関税やライセンス関連の手続きなど、あちこち駆け回って交渉して取得をサポートしてくれたという。佐々木氏自身、「個人的には最も感謝しているメンバーの一人。彼女がいなければこのタイミングでローンチできていなかった」とコメントしている
Dodaiの販売部門を主管するSamuel Teshome氏(Head of Sales)。ベルギー系のリテール企業等でセールスマネージャーを務めた後にDodaiにジョインした人物。「ショールームの顔」として、日々顧客とのコミュニケーションに従事している

 なお、Dodaiではこのような“間一髪でのセーフ”が幾度となく続いているのだが、それはICJ吉沢氏のアドバイスによるところが大きいと、佐々木氏は思いを述べます。

「アフリカでスタートアップをやるなんて、上手くいかないのが当たり前なんだと。だが、上手くいかなかったからといって毎回止まっていては全く進まないので、上手くいかないこと前提で最初から3つくらいを同時に進めるべきなんだと。どうせ2つくらいは上手くいかないので、そうすることで、結果的に一番早く目標を達成できるんだと。当然お金は3倍かかるだろうが、そんなのどうでもいいので、期日までに目標を達成しなさいと。この半年くらいやってきて、本当にその通りだなと感じています。今のDodaiのスピード感を実現できているのは、間違いなくこのアドバイスのおかげだと思っています」(佐々木氏)

ショールームオープン記念に店舗メンバーと記念撮影(提供:Dodai)

 ちなみに、エチオピアでは政府の一挙一動で事業環境が激変することも多く、例えばThe WAVE取材クルーが約一週間の取材を終えて帰路に立つそのタイミングで、エチオピア国内での二輪の利用が全面的に禁止されてしまった。帰国後に話を聞くと、北部での内戦が激化してきたため、小周りが効く形で武器の輸送等に活用されうる二輪はリスクだということで、政府が禁止令を発出したというのだ。

 それから一週間ほどの期間を経て「無事に二輪の利用が解禁されました」という佐々木氏からのメッセージを見てほっと一安心したわけだが、このような政府の二転三転はよくある話だという。

「さすがに発売開始から2週間ほどで禁止になると、僕というよりかはメンバーの気持ち的に不安があったのですが、中長期的に考えたら絶対に電動二輪バイク社会が到来すると確信しているので、僕自身は大して驚きませんでした。…いやまあ、さすがにちょっとは『マジで?』とは思いましたけどね(笑)」(佐々木氏)

一括、ローン、そしてサブスクリプションという選択肢

アディスアベバでモビリティ関係の事業を扱うSMB(Small and Medium Business:中堅・中小企業)が集積するエリアの様子

 Dodaiのショールームは一般ユーザーが電動二輪バイクの購入を検討するために設置されたものだが、当然ながらそのようなBtoCでの販売以外に、同社ではBtoBでの販売チャネルの開拓も着々と進めている。

 具体的なターゲットの一つが、モビリティ面で人々の生活を支えるサービスを提供しているSMB事業者だ。上の写真にあるような店舗事業者は自分たちでモビリティを所有しており、スペアパーツを顧客のもとに届けたり、故障した部品や筐体そのものを買い取ったりといったことを生業としている。その際に、常にバイクでの移動が発生することから、それをDodaiの電動二輪バイクに置き換えるというわけだ。

「フードデリバリーと一緒です。自分たちが持つスペアパーツのデリバリーをバイクでしているので、そこを一つのターゲットと見込んで、今市場調査を行っているところです。ちなみに、フードデリバリー事業者についてもターゲットの一つとしてリサーチしていますが、彼らは自分たちでバイク等のアセットを持ちたがらないので、そのあたりの販売戦略をどうするかを検討中です」(佐々木氏)

Dodaiのマーケティング部門を主管するSamuel Tariku氏(Head of Marketing)。The WAVE撮影クルーが取材した時点でまだDodai入社前ではあったが、市場調査のためにモビリティ関連のSMBが集積するエリアの下見をするとのことで、せっかくなのでご一緒した

 話を聞くとBtoBの方が市場規模は大きそうなのだが、佐々木氏の見立てによると、BtoC(一般ユーザーへの販売)とBtoBでおよそ半々程度になるのだそうだ。だがBtoCの場合、大半の国民にとってDodaiの電動二輪バイクは高価な買い物になるので、キャッシュ一括での購入は難しいという。だからこそ同社では現在、主に一般ユーザーを対象にしたローンプランの設置を目指している。

「アディスアベバの一般的な家庭の月給が2〜5万円くらいなのに対して、うちの電動二輪バイクは20〜25万円程度です。ざっくりとですが給料1年分の価格なので、一括で購入しようとすると、よっぽど価値のあるものとして理解してもらわないといけません。ですから我々としては、ローンを組めるようにしたいと考えています。ローンを組むためには、銀行にローンを発行してもらう必要があるので、その座組を組んでもらうために現在銀行の担当者と話を進めようとしています」

「それからもう一つ、全く別のアプローチとして、サブスク事業も密かに準備しています」

 全ての電動二輪バイクはバッテリー駆動になるので、当然ながらバッテリーの充電作業というものが発生する。1日に何時間もかけて充電する必要があるので、毎日何度も頻繁に乗車するような人にとっては大変な作業になる。また佐々木氏によると、一般的な電動二輪バイクのコストのバッテリー価格が占める割合は、およそ5〜7割にも上るという。逆に考えると、バッテリーを搭載しない「バイクの筐体部分」だけを販売すれば、販売価格を3〜5割程度に下げることができるわけだ。

 つまり、毎日のようにバッテリーを充電する必要がある人や、購入の初期コストを少しでも抑えたい人を対象に、Dodaiでは「バッテリーのサブスクリプションプラン」を用意しているという。

サブスク事業の立ち上げに向けてユーザー向けアプリの開発を進めているAbenezer Yakob氏(CTO)。スタートアップ向けのソフトウェア開発事業を営むAddis Softwareの創業社長であり、DodaiのCTOでもある

「Dodaiが用意するステーションに来てもらえれば、我々があらかじめ充電しておいたバッテリーへとすぐに交換してもらえるので、ユーザーは充電作業に時間を取られる必要がありません。また、これであればイニシャルコストを抑えることができるので、より費用面で購入しやすくなります。実際にインドや台湾で同じモデルが出てきて実証もほぼ済んでいるような状況なので、うまくハマれば、より多くの方のニーズに応えることができると考えています。もちろん、特にこの事業は、あらかじめ大量のバッテリーを仕入れたり、ステーションを設置したりして、かなりの投資が必要になりますけどね」(佐々木氏)

 つまりユーザーとしては、近い将来、以下3ついずれかの手段でDodaiの電動二輪バイクを利用することが可能になるという想定だ。

  • バッテリー含めて一括払いで購入・利用
  • バッテリー含めてローン払いで購入・利用
  • バッテリーがない筐体を一括払い(もしくはローン払い)で購入し、バッテリーのサブスクサービスを使って利用
バッテリー充電中のDodai電動二輪バイク

 エチオピア国民の自動車の保有率はわずか3~4%ということで、自動車を持たない大多数の国民は、非効率なミニバスや三輪車等で移動をせざるを得ない状況なのだという。実際に筆者も街中で、乗車客でパンパンになったミニバスを何度も目にしている。これらDodaiのプランがフィットして十分な資金を持たない国民でもより気軽に電動二輪バイクが使えるようになれば、相当な社会貢献につながるだろう。

「これら3つの提供形式のうち、どの手段が最もこの国のカルチャーにフィットするのかは、もちろん仮説はあるものの、正直なところやってみないと分からないところもあります。ですからここでも、吉沢さんのアドバイスに則って、全て並行で取り組んでいるということです」(佐々木氏)

エチオピアの「土台」を作る最強のチーム

オフィスでDodaiマネージャー陣との週次ミーティングを実施している様子(撮影:K-PHOTO、提供:ICJ)

 日本から遠く離れた異国の地で、ここまで人々の生活に根ざしたインフラをゼロから整備しようというのは、本当にただ事ではないだろう。実際、日本人の感覚だとどうしようも判断のつかないことだらけだからこそ、佐々木氏はメンバーとのコミュニケーションを何よりも重視し、メンバーの意見にしっかりと耳を傾けながら意思決定を繰り返している。

 実際に、マネージャー陣が集まる週次ミーティングにも取材参加させてもらったのだが、内容についてはお伝えできないとしても、佐々木氏が大きな幹となるテーマをメンバーに提示し、それに対する反応や意見を汲み取りながら、次なるアクションを丁寧に決めていくような時間だと感じた。

「エチオピアって、人々の行動慣習としてフラットじゃないところがあります。つまり、自分の上司の言うことは絶対だ、という考え方が非常に強い国なんです。Dodaiを率いていくにあたって、今いるメンバーほぼ全員に共通して最初に感じた課題はそこでした」(佐々木氏)

 今いるメンバーは全員、2〜3ヵ月もするとその思考のクセが抜けて、間違いだと感じる部分の指摘含め自分の意見を積極的に発言するようになったのだが、最初のうちはなかなかざっくばらんなディスカッションにならず、苦労したという。そんな中でも、初期の段階でジョインした副社長兼COO・Hilina Legesse氏とは、早い段階で率直な意見交換ができていたと言う。

Dodaiのコーポレート部門を主管するHilina Legesse氏(Head of Corporate)。エチオピア最大の求人・転職サイト「EthioJobs」の立ち上げからその発展までを統括し、社長としてわずか5人のスタートアップから数百人規模の組織へと成長させた経験を有する

「ヒリーナ自身、Dodaiに来る前はEthioJobsという国内で有名な人材系サービスの創業社長として組織を率いてきた人間です。そういう経験値もあって、Dodaiの初期の頃から侃侃諤諤で議論させてもらっています。今でこそ僕はこんなに落ち着いていますが、創業当初はそれこそ慣れないエチオピア行政とのやり取りにイラついて、相当怒っていました。そんな怒れる僕を宥めたりもしてくれていましたね。ただまあ、僕は結構みんなに対してディマンディング(要求が厳しめ)なので、みんなからは怖がられているんだろうなとは思いますけどね」(佐々木氏)

 そんなものかと思い各マネージャー陣にお話を聞いてみたが、たしかに「休みの直前の夜にタスクが降ってくるから大変だ」みたいな話もあったりはしたが、基本的にはみんな佐々木氏に対して率直なコミュニケーションをしているようだった。

 ある人は「毎日のように、口論かと思われるような議論をしているよ」と笑いながら説明し、またある人は「お互いに信頼関係を作るのに数ヵ月を要したけど、今では彼の言いたいことをしっかりと理解できるし、信頼してビジネス開発を任せることができると感じている」と言う。またある人は「公的な場でも服装がテキトーだから、そこはなんとかしてほしい」とダメ出しをしてきた。

 だがそれと同時に、私が話を伺ったメンバーは全員、腹の底から佐々木氏が掲げるDodaiの未来を信じ、「彼の描くエチオピアの未来に向けて一緒に進んでいきたい」と強調していた。

 そんな話を佐々木氏にしたところ、彼は照れくさそうに笑いながら、自身が事業開発を進めるモチベーションについて口にした。

「最初はエチオピアの市場性とか人口規模のインパクトとかを理由に事業を始めたのですが、今は半分以上のモチベーションが “人” です。吉沢さんは『で、数字は?』とおっしゃいますけどね(笑) エチオピア国民はみんな気持ちが真面目で、これはもう会ってみていただくのが一番です。本当にありがたいことに、着々と最強のチームが出来上がってきているので、この調子で、まずは電動二輪バイクの市場を開拓していきたいと思います」(佐々木氏)

 Dodaiという社名は、日本語の「土台」から来ているという。アフリカの次世代の土台となる事業を立ち上げるべく命名されたこの会社を軸に、今、続々と連携の輪が広がり始めている。一例として本記事を執筆している2023年10月時点においては、エチオピア郵便公社「エチオポスト(Ethiopost)」とのパートナーシップ事業第一弾が発表されている。

エチオポストとのパートナーシップ締結式の様子(提供:Dodai)

 ライオンでもトラでもなく「熊」が好き。ついでにラーメンも好き。だけど事業開発には妥協しない。そんな佐々木氏の「温かみのあるパワーマネジメントスタイル」こそが、人々を魅了していることは間違いないだろう。10年後のDodaiがどうなっているのか、今から楽しみでならない。

 

Dodai 日本語HP:https://dodaijapan.com/index.html

取材/文:長岡武司

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この記事を書いた人

人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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