MEVって何?PBS?MEV-Boost?2023年クリプト領域のホットトピック「最大抽出可能価値」のこれまでとこれからを詳しめに理解しよう

 シンガポールで開催されたTOKEN2049 SINGAPOREをはじめ、テーマ横断型のクリプトカンファレンスやサイドイベント等に色々と参加してみると、「MEV」を扱うセッションや集まりが増えてきた印象だ。間違いなく、クリプト領域における2023年のホットトピックの一つだと感じる。

 MEVとは、2022年9月に実施されたEthereumのThe Merge以前においては “Miner Extractable Value”(マイナー抽出可能価値)を、The Merge以後の現在においては “Maximal Extractable Value”(最大抽出可能価値)のことを指す言葉だ。Ethereumの公式ページ解説には、以下のような説明が記載されている。

特定のブロックにおけるトランザクションの追加、削除、または順序変更により、ブロックの生成時において標準的なブロック報酬やガス代を超過して抽出できる最大の価値を指します。

引用:Ethereum「最大抽出可能価値(MEV)」

 後述する通り、MEVはブロックチェーンの“自律分散”の仕組みを実現する上でどうしても発生する現象なのだが、そこには様々な問題があり、自律分散を維持しながらいかに問題を解消するのかについて、各所でコードを用いた侃侃諤諤の議論がなされているわけだ。

 MEVにまつわる諸問題と、それに対する取り組みの現在地はどうなっているのか。今回は、2023年4月14日から3日間にわたって開催されたグローバルハッカソンイベント「ETHGlobal Tokyo」にて行われた、Ethereumリサーチャー・Alex Stokes氏による“MEV and Ethereum” と題されたセッションの内容をベースにしながら、MEVの過去、現在、そして同氏が考える未来についてまとめた。

ETHGlobal Tokyoにて発表するAlex Stokes氏(Ethereum Foundation)
目次

MEVは、基本的にあらゆるところに存在する

 Ethereumのエコシステムにおいては、2022年9月のThe Merge(アップグレード)を境に、その仕組みが大きく変わっている。詳細はこちらの公式ページをご覧いただきたいのだが、最も大きな違いの一つは、Proof of Work(PoW)からProof of Stake(PoS)への移行と、それに伴う報酬体系の変更にあると言える。

 The Merge以前のEthereumでは、マイナーはブロックに取引(以下、トランザクション)を含めることで報酬を得ていた。通常、マイナーは自身の収益を最優先するために手数料(ガス代)の高いトランザクションを優先して処理をするわけだが、同時にメモリープール(Mempool:順番待ちのトランザクションの一時的な保管場所)等の各情報を収集・参照した上で、トランザクションの順序等を自由に変更することができる。そのため、一部のマイナーは自身の利益を最大化するために、特定のトランザクションを意図的に処理することがあるのだ。

 その具体的な問題の一つとして、Stokes氏は以下のUSDCとETHの取引例に関するスライドを使いながら、「サンドウィッチ攻撃」について説明する。

「ここに1656USDCがあり、それを1ETHと交換したいとして、それがたまたまUniswapのプールでの現在価格だったとします。この際に、スリッページ(slippage)と呼ばれる、トランザクション送信時とブロックチェーンでトランザクションが確認された時の価格差が発生します。この例では0.5%ということで、1656という価格の前後の取引においては、基本的に0.5%のスリッページを受け入れるということです」

 スリッページそのものは、このようなDEX(分散型取引所)以外でも広く金融商品の取引において発生するものだ。市場に十分な流動性がない場合や、市場のボラティリティが激しい場合、さらには注文のサイズが大きい場合などにおいて発生する可能性が高まる。ここでは例としてスリッページの値が0.5%なので、「1656USDCのみ支払いたいが、1664.28USDCまでなら受け入れてもよい」ということになる。できるだけ安く済ませたいのは当然のことだろうが、「いかに早く決済するか」と「いくら支払うか」はトレードオフの関係にあるわけだ。

 ここで発生しうるのが、フロントランニング問題もしくはバックランニング問題だ。フロントランニングとは、マイナーが大量の買い注文が入っているトランザクションを検出し、その注文よりも先に自分のトランザクションを処理することで、価格差を利用して利益を上げる行為のことを示す。買い注文のトランザクションよりも高いガス代を提示して自分のトランザクションを先に実行することで、もともと予定されていた価格よりも高い価格で実行されることになる。この価格差を利用した儲け方がフロントランニングというわけだ。

 一方で、トランザクションが完了した後に、マイナーが自分のトランザクションを処理し、価格変動を利用して利益を上げるバックランニングという方法もある。トランザクションの完了を検知した上で、その直後で同じトークンの売り注文のトランザクションを実行する。これによって、後続のトランザクションで予定されていた価格よりも低い価格での実行が可能になるので、結果としてフロントランニングと同様に、価格差による利益を得ることができるわけだ。

 冒頭で記載した通り、2022年9月のThe Mergeが成功しProof of WorkからProof of Stakeへと移行したことから、マイナーの代わりにバリデータがトランザクションを承認し、報酬を得るようになった。32ETHをステーキングする(預け入れる)ことによってバリデータになれるわけだが、Casper FFG(イーサリアム2.0のコンセンサスアルゴリズム)に参加してブロックをビーコンチェーンへと提案したバリデータのことを、Ethereumでは「プロポーザー」と表現している。

 プロポーザーはトランザクションを承認しブロックを作成する役割を果たすわけだが、この仕組みであってもプロポーザーがトランザクションの順序や選択を恣意的に変更できてしまうため、このMEVの問題は依然として存在することになる。特にPoWと比較すると、PoSの場合は「誰がブロックを構築するのか」が事前にわかることになるので、よりMEV問題が顕著になるというわけだ。ちなみにMEVという言葉自体も、マイナーではないがMEVは続いているということで、 “Miner Extractable Value” から “Maximal Extractable Value” へと意味合いがアップデートされたと考えると分かりやすいだろう。

「MEVは、基本的にあらゆるところに存在します。伝統的なシステムにもMEVがあると言えます。このような課題があるが故に、今、MEVを意識したプロトコル設計が不可欠だと言えます」

MEVフレームワークで考える各アクターの役割分担と、PBSが必要な理由

 ここでStokes氏は、MEVを取り巻く急速な変化を考えるための新しいフレームワークとして、thegostep氏による「MEVフレームワーク」の図を引き合いに出して説明を続ける。

「左側にはユーザー(トレーダー)がいるわけですが、彼らは通常、可能な限り最高の価格でトークンを交換したいと考えながら、MetaMaskのようなウォレットを介してトークン等のやり取りをします。ここでのトランザクションは、パブリックもしくはプライベートなメモリープールへと送られます」

 少し補足すると、ウォレットには後述するサーチャーが無差別にトランザクションを拾い上げることができるようなパブリックトランザクションプールにルーティングするものと、サーチャーがトランザクションでできることを制限するようなプライベートなルーティングシステムへと送るものがある。つまり、ここのウォレットレイヤーにて、MEVをどのように扱うかが決定されることになる。

 図の真ん中にいるサーチャー(searcher)は、可能な限り多くのMEVを抽出しようとする、独立したネットワーク参加者を指す。彼らは自動化されたボットを利用しながらDEX(分散型取引所)で少しでも収益性の高いMEVの機会を探るべく、あらゆるソースからユーザートランザクションを授受し、バンドル(bundle)などの複雑なトランザクションタイプに変換した上で、収益性の高いトランザクションを送信している。

「サーチャーの主な役割は、いわば“戦略”を見つけることにあります。流動性プールからの取引やアービトラージ(裁定取引)、それから清算などを通じてネットワークの取引をスムーズにするようなものは、いずれもサーチャーの仕事です。例えばMakerDAOのCDP(担保付き債務ポジション)があるものの、急に担保不足になったことから、システムの健全性のために清算する必要があるといったケースが考えられます。このように、全てのMEVが必ずしも悪いわけではなく、プロトコルを健全に保つための“良いMEV”もあるということです。ちなみにバンドルとは、トランザクションのスタックのようなものです。サンドウィッチ攻撃の例で言えば、サンドウィッチされた私のトランザクションにはフロントランとバックランがあり、それがバンドルのようなものだと捉えてください。そしてそれが、次のビルダーに渡ることになります」

※バンドルは、複数のトランザクションがまとまったものである場合もあれば、一つだけのトランザクションの場合もある

 4番目のビルダー(builder)は、多様なソースからのトランザクションを集約し、ブロックを構築する役割を担っている。その後、生成されたブロックを実際にチェーン上に追加するバリデータ(validator)が登場する。ちなみに、後述するPBSの考え方に準拠してこの2つを分けて表現しているが、PoSへの移行前においては、バリデーターがビルダーの役割も兼ねていたので同じエンティティであったと言える。だからこそ、強いプレイヤーにどうしても集中してしまうという問題があったわけだ。

 と、ここまで紹介された図はthe Mergeが行われた頃のものであるが、今日においては、より複雑になってきているとStokes氏は続ける。

ERC-4337という、アカウント抽象化(account abstraction)に関する概念を聞いたことがあると思います。簡単にお伝えすると、ユーザーがオンチェーンで“生の”Ethereum取引を行うのではなく、ユーザーオペレーション(UserOperation)を持つことができるようになるというものです。このサプライチェーン図では、ユーザーオペレーションを収集するバンドラー(bundlers)と呼ばれる別のアクターが存在します。彼らは自分たちのバンドルを作り、それをトランザクションに組み込みます。もちろん、他にもここには載っていないような事例が山ほどあります。最近ではオーダーフローオークション(OFA)を考えるという先進的な研究も進んできていますが、いずれにせよ、こういった仕組みは驚くほど早く複雑になっていきます。ここまでご覧いただいてお分かりのとおり、ブロックチェーンを現在のような方法で使おうとすると、本質的には同じようなこと(MEV)が起きてしまうのです。そして、それは強いプレイヤーによる中央集権的な力でもあると言え、Ethereumにとってもこれが非常に大きな問題になりはじめているのです。繰り返しになりますが、MEVの問題は、分散化の目標に真っ向から対立していると言えます」

※アカウント抽象化については以下の記事をご参照ください。

▶︎ヴィタリック氏が語る「アカウント抽象化」への移行と、その先の未来 〜Web3 Transition Summitレポート

 このようなMEVの課題感から生まれたアプローチが「PBS(Proposer-Builder Separation)」である。PBSの基本的な考え方としては、プロポーザー(Proposer:Ethereumにおけるバリデータ)から、ビルダーの権限を分離させるというものだ。

 ビルダーはトランザクションの順番を決め、最適なブロック構成をプロポーザーへと提供するのに対して、プロポーザーはシンプルに最高額の入札があったブロック構成を受け入れるという役割分担を想定した仕組みとなっている。プロポーザーは、このような仕組みで成立するオークションを落札したブロック構成のヘッダーを選択するまでは、ブロック構成の中身を見ることができない。よって、トランザクションの順番を決めるプロセスがより競争的になり、先述したフロントランニングやバックランニングなどの悪質な行為が軽減されることが期待されるというわけだ。

「とはいえ、これは非常に大きなデザインスペースです。実際にプロトコルに何かを組み込む(in-protocol)のは非常に難しい上に、一度手を加えたら極めて変更がしにくく、さらに万が一間違いがあった際には多大なる影響があるからです。もしかしたら、想定していなかった何かしらの第三の影響があるかもしれません。よって、プロトコルレイヤーをいじるよりも、オフチェーンで対処(out-of-protocol)してしまおうというのが、MEV-Boostの基本的な考え方になります」

MEV-Boostの仕組みから考える、MEVの根本解決が難しい事情

 MEV-Boostは、MEVの研究開発を進めるFlashbots(フラッシュボッツ)がEthereumのPoS用に構築した、PBSを実装するためのオフチェーンソリューション、いわゆるビルダーAPIと呼ばれるものだ。ホームページでは、以下3つのアプローチを通じてMEVのためのパーミッションレスで透明性のある持続可能なエコシステムを実現することが、同組織の最優先事項として掲げられている。

  • Illuminate:MEV活動に透明性をもたらす
  • Democratize:MEV収益へのアクセスを民主化する
  • Distribute:MEV収益の持続可能な分配を可能にする

 具体的にどうやってPBSを実装しているのか。まずはこれについて、Stokes氏は以下のように説明する。

「Ethereumのネットワークには大きく、コンセンサス層と実行層があることはご存知ですね?コンセンサス層(青色部分)はPoSコンセンサスを実行してブロック順を決定し、実行層はブロック内のトランザクションを処理します。この図では、MEVを含む実行ペイロード(execution payload)を“金色の境界線”で示しています。ここでの核心的な問題は、プロポーザーがブロックスペースを売りたがっていることです。つまり、この小さなクエスチョンマークのようなブロックの実行部分を売りたいのです。そしてビルダーはそのスペースを購入しようとしています。これにより、ブロックスペースを売買する市場が形成されます」

 このような、プロポーザーとビルダーの連携をStokes氏は“ランデブーサービス”と表現し、MEV-Boostの役割だと説明する。

 PBS環境下においては、プロポーザーはブロック構築作業をアウトソースすることになる。先ほどの役割分担で説明すると、サーチャーが収益性の高いトランザクション群をバンドルとしてビルダーへと渡し、ビルダー達はそのバンドルやパブリックなメモリプール等からのトランザクション情報をもとに、収益性の高いブロックを構築していく。プロポーザーは、そのブロック群の中から、より価値の高いブロックを選ぶだけというわけだ。

 このように、ビルダーがどのトランザクションにするのかを決定することになり、プロポーザーはトランザクションの順序等を自由に変更することができないことで、先述した「Illuminate」「Democratize「Distribute」を実現しようとしているわけだ。

 だが、そう単純にはいかない。というのも、Ethereumは非常に分散化されたバリデータエコシステムを目指しているわけで、誰でもバリデータになれるからこそ、悪意のあるアクターがビルダーを悪用する可能性があると、Stokes氏は指摘する。

「大前提として、この仕組みにはプロポーザーとビルダーの両者に誠実さが必要です。ビルダーは、構築された実行ペイロードを組み立てる作業の対価として“チップ”を受け取るわけですが、バリデーターは潜在的に、構築された実行ペイロードを受け取り、ビルダーの支払いを取り除き、すべてのMEVを回収することができてしまいます。中央集権的なフライホイールを防ぐためのファイアウォール的なものも作れなくなってしまうからこそ、実際の運用として機能するような健全な構造が必要になってきます。端的にお伝えすると、①信頼できるバリデータにだけネットワークにアクセスできるようにするか、②それであっても信頼の条件を無しにするか、です」

「ここで、こちらの図をご覧ください。不透明な部分は、何らかの要因によって“見えていない”ということを表しています。プロポーザーは、ビルダーに対して『コミットできるものをくれ』と言い、ビルダーは、構築した透明の実行ペイロードを提出します(上図1番目)。プロポーザーは実行ペイロードに署名し、スラッシングペナルティ(違反時に罰金が課されること)の範囲内で、このブロックにバインドします(上図2番目)。これにより、ビルダーに対して、プロポーザーがこのブロックにバインドした証明が提供されます(上図3番目)。プロポーザーがブロックにバインドしたことが確認されると、ビルダーは安全にブロックを公開することができます(上図4番目)。これにより、先干そお伝えしたようなMEVの窃盗や盗難の問題が基本的にはなくなります」

 だが、このようなビルダーとプロポーザーのやり取りだと、最後の入札シーンでビルダーはブロックを公開する必要がある。もしもビルダーがブロックを公開しなければ、プロポーザーに損害を与える可能性があるのだ。つまり、ビルダーがプロポーザーに実行ペイロードへと署名させた後で、実際のブロックを提供しないというものだ。これにより、プロポーザーはブロックを提案する機会を失ってしまうことになり、今度は可用性の問題が浮上してくることになる。これを踏まえて導入されたのが、リレー(relay)と呼ばれるアクターだ。

 リレーは、プロポーザーとビルダー間のトラストを不要にし、可用性の保証として機能する。彼らはビルダーが新しい有効なブロックを持っていることを確認し、複数のビルダーから受け取ったブロックの中から最も収益性の高いものをプロポーザーへと渡す、中継者としての役割を果たす。つまり、リレーが可用性のオラクルとして機能し、提案者が契約の条件を守る限り、ペイロードが利用可能であることを保証するのだ。このリレーが複数存在することによって、先述した中央集権化に伴う問題を軽減することができると目されている。

「ここまでの長い話をまとめるとこんな図になります。Flashbotsによるものです。ここには多くのビルダーがいて、またリレーも複数います。理想としては多ければ多いほどよく、それによって適切な競争が行われます。MEV-Boostはこの図にあるように、ブロックが異なるソフトウェア・コンポーネントのようなもので、すべてのリレーとの通信をオーケストレーションします。そしてそのリレーが、今度はすべてのビルダーとやりとりをする。これがMEV-Boostの全体像です」

PBSにまつわる多くのエキサイティングな研究開発が進行中

 ここまで見てきたMEV-Boostは、基本的にはプロポーザーにとっては高い収益性を実現するために不可欠なツールになってきている。冒頭でもお伝えしたとおり、MEV-Boostに関するリアルタイムのデータを確認できる「MEV-Boost Dashboard」の”MEV-Boost Slot Share”グラフを見ていただくとお分かりの通り、直近半年は平均して90%強のブロックがMEV-Boostによって構築されている状況だ。

MEV-Boost Slot Share(出典:MEV-Boost Dashboard 2023年12月10日時点)

 ビルダーやリレーの状況を見てみても、先ほどStokes氏が言っていたような「多様」な環境が、着々と実現しつつあることがわかる。特にリレーにおいては、リリース当初はFlashbots(青色部分)がメインだったのだが、現在においては複数のプレイヤーが参入していることが確認できるだろう。

ビルダーのSlot Share(出典:MEV-Boost Dashboard 2023年12月10日時点)
リレーのSlot Share(出典:MEV-Boost Dashboard 2023年12月10日時点)。ちなみに筆者が参照した際には、アクティブなリレーは11もあった

 だが、MEV-Boostが完璧かというと、そんなこともない。例えば米外国資産管理局(OFAC)によるトランザクションの検閲リスクというものが存在するし、排他的オーダーフロー(EOF:Exclusive Order Flow)の問題もある。また、ビルダーとサーチャーの統合運用による独自のサプライチェーンの構築による、ビルダーの中央集権化のリスクも挙げられるだろう。

 このように、MEVにまつわる課題は次から次へとやってくる。次はどうするのか。長期的に想定している取り組みとして、Stokes氏は以下の内容を列挙する。

「Ethereumとしては長期的に、PBSをプロトコルに組み込むことが目標です。代表的なデザインは、Vitalik Buterinが提案した“Two-slot PBS”だと思います。基本的なアイデアとしては、MEV-Boostの構造をEthereumプロトコルに直接組み込み、入札スロットと提案スロットを設けることです。また、Ethereum Foundationの研究者であるBarnabe Monnotは“PEPC”というアイデアについても書いています。要するに、特定のオークションを用意するのではなく、スマートコントラクトがプログラム可能であるのと同じように、それをプログラム可能にするという、非常にクールな考え方です。このように、多くのエキサイティングな研究開発が進行しています」

短期的な課題としてはMEV-Boostネットワークにおける中央集権化の傾向が紹介され、オークションのダイナミクスを改善するためのオプティミスティックリレー(Optimistic relays)という新しい取り組みについて説明された
中期的な取り組みとして挙げられたもの。このスライドが表示されたタイミングは、ちょうどShapellaがの実装が完了した時だった

 今回は、90%以上のスロットシェアを誇るMEV-Boostを中心にMEVの概要や取り巻く環境等を見ていったわけだが、昨今ではMEV-Boostが潜在的に抱える課題を解消するために、SUAVE(the Single Unified Auction for Value Expression)のような新たなるプロトコルや、その他様々な概念/プロジェクト等が登場してきている。その詳細はまた次回以降の記事に委ねるとして、いずれにしても、ここ一年のクリプト関係のカンファレンスに参加したり動画を参照したりしていると、MEVトピックのセッションが相対的に増えており、注目度もどんどんと高まっている印象だ。MEV-Boostをはじめ、様々なMEV関連のソリューションを提供するクリプトプロジェクト/スタートアップを注視していきたい。

 

(本記事執筆で参考にした記事一覧)

フル動画はこちら

取材/文:長岡武司
執筆支援:里 優裕

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人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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