Web3推進で不可欠な「企業間コラボ」を考える with TOPPAN&CAICA 〜web3BB 2023サマーレポート後編

 2023年7月5日〜6日にかけて、六本木の国立新美術館で開催されたカンファレンス「web3BB東京 2023 サマー」では、大企業をはじめ、日本国内でWeb3を推進するステークホルダーが集まり、いかにビジネスへと活用できるかを議論していった。

 レポート前編では、DAY2に行われた「Web3における企業間のコラボレーション」と題されたセッションについて見ていく。Web3をハブにして企業同士が協力関係を築いていくことのメリットや、いかにしてイノベーションへとつなげていくか等について意見が交わされた。

  • 平山 正俊(TOPPAN Inc. ビジネス プロデューサー)
  • 池田 英樹(CAICA Exchange Inc. CTO)
目次

さらば“印刷”!新規事業の中で最も注力するWeb3領域

「123年の歴史を誇る凸版印刷という会社がなくなる」

 開口一番、平山 正俊氏がこう切り出したことで、会場がざわついた。実は同社グループは2023年10月に持株会社体制へと移行し、商号改め「TOPPANホールディングス株式会社」として再スタートを切ることが決まっているのだ。各事業部ごとの社名も“印刷”という文字は完全になくなり、現在は移行に向けて200社ほどある子会社の綺麗に整理を順次進めている段階だという。

 凸版印刷全体の売上は約1兆5,000億円程度なのだが、印刷関連の事業が占める割合は30%ほど。社内各所では、新しい分野を次々と開拓して「もう一度ビジネスを再構築していこう」という機運が高まっているという。AIやメタバースなどを軸とする様々なチャレンジが社内で興る中でも、「最も注力しているのがWeb3事業だ」と平山氏はコメントする。

「自社だけでやるのではなく、今回ご一緒しているCAICA Exchangeさん含め、いろんな企業とコラボレーションしていきながらWeb3事業開発に取り組んでいるのが現状です」(平山氏)

 CAICA Exchange(株式会社カイカエクスチェンジ)は、2016年に開設された暗号資産取引所「Zaif」(登録番号近畿財務局長 第00001号)を運営する企業だ。このほかにも、その実績を活かしてNFTやブロックチェーンなどの技術を活用したWeb3事業の支援も手がけている。両社は今年5月9日にWeb3領域におけるNFT活用で連携することを発表している。

 同社のCTOであり、また関連会社の株式会社CAICA DIGITALでWeb3事業本部長も務める池田 英樹氏は「大企業とWeb3のプロジェクトを始めると、PoC(概念実証)はだいたい成功してしまい、そのまま終わることが多い」と述べる。

 それでは先に進まないということで、池田氏は「凸版印刷から提案いただくアイデアと、今動いているWeb3の事業をうまく合わせて、きちんと世に送り出すプロダクトにまで持っていきたい」という思いのもと、事業開発に着手していると言う。

Web3は「表」に出てこないと事業が進まない

 平山氏としては、Web3はまだまだマーケットフィットにまでは至っておらず社会実装も遅々として進んでいないことから、「正直、現時点でそこまで騒ぐことなのか」と感じているという。グローバル全体で見ても、Web3全体のマーケット規模はほか産業と比較してまだまだ小さい。

 一方で技術の真価を考えてみると、先日The WAVEでも開設記事を配信したSoulbound Tokens(SBT)の考え方をはじめ、より人々が豊かに生きるためのアプローチとして有効に機能する可能性も秘めていると言える。だからこそ、ただの投機対象/ビジネストレンドとして捉えるのはあまりにもったいなく、凸版印刷としては「ビジネスとしてしっかりと昇華させていくのが役割だ」と平山氏は続ける。

「弊社では約3万社の法人企業様と取引があります。仮に、その10%にあたる3,000社だけでもWeb3の仲間に加わっていただくことができれば、それだけでも大きな社会的インパクトを作り出せると捉えています。その準備段階として、池田さんのところと一緒に組ませていただいていて、いろんな実証を裏側で行っています」(平山氏)

 その中の取り組みのひとつが、企業のNFT参入支援だと言う。鉄道会社やゲーム開発会社、芸能事務所など、この1年間で50社を超える企業とともに、世の中にNFTを送り出すことに取り組んできたというのだ。そこで得た知見や生じるリスク、企業がNFTを発行する意義などを、CAICA DIGITALに情報としてフィードバックしながら、連携強化を図っている。

「凸版印刷だけが情報を握るのではなく、一緒に動いてくれている企業にも情報を公開し、みんなで成功していけるような体制を目指したいと考えています」(平山氏)

 これに対して池田氏は、常日頃から「Web3は『裏』ではなく『表』に出てこないと事業が進まない」と考えているという。そんななかでも、凸版印刷は積極的に表へ出ていく姿勢や「どうしたら面白くなるのか」という現実解を求める相談が多く、パートナーとして仕事のしやすさを感じているそうだ。

 平山氏も「凸版印刷に入社後、ゲーム系の事業に携わってきたが、あらためて『面白い』や『楽しい』という感情はすごく大事」だと呼応する。

「便利な世の中を追求するためにプロダクトを作るのもいいのですが、純粋に面白くて楽しいプロダクトを作っていくことで、そこに賛同する人も増えると思っています」(平山氏)

 CAICA DIGITALが手がける「Zaif INO」(読み方:ザイフアイエヌオー)ではブロックチェーンゲームに注力してきたことで、「ようやくブランドが世の中に定着し始めてきた」と池田氏。今後は、よりユーザーに楽しんでもらうためにも、世の中へのゲームの送り出し方の最適解を探していく段階だという。

Game-Fi専門の一次販売に特化した審査制NFT販売システム「Zaif INO」では、一定した審査基準により選定されたプロジェクトの販売、マーケティング、サポートなど、NFTプロジェクトの成長を一環で支援している。凸版印刷はこのZaif INOにおける法人出品者の窓口として、CAICA DIGITALと連携し、出品申し込みや審査、NFTのマーケティング活用までをサポートする

Web3に代わるような言葉が必要なのかもしれない

 日本が世界に先駆けてWeb3の社会実装を成し遂げていくためにも、個社だけが奮闘するようでは限界があり、時間もかかってしまうだろう。「Web3が理想像にとどまってしまうか否か、日本はまさに瀬戸際にいる」としつつ、そこで鍵を握るのがBtoBビジネスにおける連携だと、池田氏はコメントする。

「理想と現実の狭間で色々と難しい部分はありますが、徐々に新しいプロダクトが出てきているのも事実です。我々としては、こうした動向をチェックしながら都度平山さん等のクライアントへと情報を共有し、ディスカッションを重ねているような状況です」(池田氏)

 池田氏によれば、昔ほど暗号資産取引所を運営する各社間の壁がなくなってきているという。それぞれユーザーの囲い込みをやっていても全体のパイが増えるわけではないので、情報交換もしやすくなっているそうだ。

「こういった知見も取り入れつつ、いいプロダクトを世の中に送り出すスピードをもっと早められるように、今頑張っているところです」(池田氏)

 平山氏は「もっと市場へと参入する企業を増やすには、Web3という言葉をDXのようなわかりやすい言葉に代替すればいいのでは。BtoB企業における予算取りも既存のものから置き換えると担当者もわかりやすいと思う」と所感を述べ、これに対して池田氏も「NFTも含め、Web3のビジネスは暗号資産取引所に必ずしも結びつくものではないので、Web3に代わるような言葉が必要なのかもしれない」と同調する。その上で、最後に以下のようにコメントしてセッションを締め括った。

「事業者によって、いろんな悩みは抱えているものの、Web3領域における企業間コラボレーションは確実に進んでいます。もちろん例えば、いかにブロックチェーンに乗せていくのかという難しい問題等もあるわけですが、それらを一つひとつクリアしていき、Web3がもっと社会へと浸透していけるようにしたいと思います」(池田氏)

取材/文:古田島 大介

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この記事を書いた人

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