音楽とアーティストの持続性に向けて「FRIENDSHIP. DAO」が目指すこと 〜web3BB東京 2023サマーレポート前編

 2023年6月18日〜7月9日にわたって開催された「Japan Blockchain Week 2023」(以下、JBW2023)。2018年より開催されているNon Fungible Tokyoが主体となって発展してきたWeb3/クリプトカンファレンスであり、昨年度は30以上の関連コミュニティイベントが開催されて話題となった。

 そのJBW2023ラストのオフィシャルイベントとして開催されたテクノロジーカンファレンス「web3BB東京 2023 サマー」(開催日:7月5日〜6日)について、The WAVEで前後編に亘ってレポートする。

 日本発のグローバルweb3推進ビジネスコミュニティである「web3BB」では、2022年3月の渋谷での初開催を皮切りに年3回のペースでクローズド/オープンそれぞれのカンファレンス会合を開催。オーガナイザーであるPivot Tokyo株式会社では、その他にも企業向けWeb3研修を提供するなど、Web3/クリプト人材の育成とコミュニティの促進に力を入れているとのことだ。

 レポート前編では、web3BB 2023 サマーの初日に催された「web3で音楽アーティストは実権を持てるのか~ 国内音楽DAOプロジェクトとアーティストの未来~」と題されたセッションについて見ていく。

  • 赤澤 直樹(Fracton Ventures Co-founder/CTO)
  • 武田 信幸(LITE)
  • 平 大助(HIP LAND MUSIC FRIENDSHIP. キュレーター)
  • 山崎 和人(HIP LAND MUSIC CORPORATION 執行役員 FRIENDSHIP. Div.)※モデレーター
目次

FRIENDSHIP. で重要な「キュレーター」の存在

 今回のテーマが「国内音楽DAO」ということで、具体的には「FRIENDSHIP. DAO」というプロジェクトについて見ていくわけだが、そもそもその土台となるサービスが、株式会社ヒップランドミュージックコーポレーションにより運営されている「FRIENDSHIP.」(読み方:フレンドシップ)になる。

 FRIENDSHIP.とは、2019年5月よりスタートしたデジタルディストリビューションとプロモーションが一体となった音楽配信サービスだ。‎Apple Musicのように一般ユーザーが音楽を楽しむためのプラットフォームというものではなく、例えば‎Apple MusicからSpotifyへとアーティストの音源等を配信するという、いわゆる“仲介”の役割を果たす存在である。その中で仲介のみならず、「プロモーションとしての付加価値」をつけてサポートすることで、アーティストの権利と主体性を守るというコンセプトで運営されているのがFRIENDSHIP.だと、同サービスキュレーターの平 大助氏は説明する。

「ほとんどの場合、アーティストと契約しているレコード会社やレーベルという存在があって、そのレコード会社/レーベル等がアーティストの原盤権(著作隣接権の一つ)をほぼ保持するという形になります。つまり、プロモーションを実施する代わりに、楽曲からの売上が上がってもアーティストへの還元率は少なくするという仕組みで成り立っています。それらに対してFRIENDSHIP.では、原盤権はアーティストが保持したままで大丈夫です。具体的な数字を挙げると、売上の85%をアーティストに返すというような形で、相互の主体性を重視してやっているサービスになります」(平氏)

 またFRIENDSHIP.には、平氏のようなキュレーターが全部で14名いて(イベント開催時点)、キュレーターが厳選した楽曲だけを配信するというルールになっているという。イベント開催時点で39ストア・全187ヵ国へと配信(全2708タイトル・7,212曲をリリース)しており、特に配信タイトルの“クオリティコントロール”に力を入れていると平氏は強調する。

「例えば先月(2023年5月)のキュレーターミーティングでお伝えすると、だいたい40組くらいのアーティストがFRIENDSHIP.へと応募してくれたのですが、先月については審査が結構シビアで、結局1組もリリースに至りませんでした。このように、音楽のクオリティを重視してリリースアーティスト/タイトルを決めています」(平氏)

 このFRIENDSHIP.にてタイトルリリースしているアーティストの一人が武田 信幸氏だ。インストロックバンド「LITE」のギタリストであり、そのLITEとDÉ DÉ MOUSEによる新プロジェクト「Fake Creators」のメンバーであり、かつ行政書士としてアーティスト向け支援等(補助金申請等)にも従事している人物である。

「アーティストとしては、曲をリリースすればあとはFRIENDSHIP.にディストリビューションを任せられるというところで、すごくスムーズにやってもらえる点が強みかなと感じています。あと、僕らは特に海外に届けたい組だったりするので、海外からの反応が直接返ってくるというのも、FRIENDSHIP.ならではなのかなと思っています」(武田氏)

音楽業界だけでなく、音楽を取り巻くすべての人を巻き込んでコラボしたい

 既存の音楽配信プラットフォームの課題面に目を向けてみると、まだまだ課題は山積している状況だと、モデレーターを務める山崎 和人氏(HIP LAND MUSIC CORPORATION 執行役員 FRIENDSHIP. Div.)は説明する。具体的には、以下のような内容が挙げられた。

  • 1日約10万曲が毎日リリースされている中、アーティストの楽曲が埋もれてしまっている
  • 1再生あたりの単価が低く、ストリーミングだけの収入では活動が継続できなくなってきている
  • 音楽サブスクリプションサービスにおいて、楽曲の制作に携わっているクレ

ジットが抜け落ちてしまっている

  • 言語の壁がグローバルでの活動の障壁となっている

 例えば2番目の単価については、1再生あたりの平均がおよそ0.7円だという。また3番目について、作詞/作曲くらいの情報であれば表示機能があるサブスクサービスが多いのだが、例えばプロデューサー名、エンジニア名、アートワーク等のデザイン担当クリエイター名など、楽曲制作に参加している他メンバーの情報がごそっと抜け落ちてしまっている点も問題だと、平氏は指摘する。

「Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスによって恩恵を受けたアーティストはたくさんいますが、やはり時間が進んでいくにつれて、『いいことだけじゃないよね』という気づきも出てきたという部分が、今山崎さんが挙げられた課題かなと思います。特に、アーティストが健やかに活動できるだけの経済的なベースみたいなところがストリーミングだけでは担保できないという部分は、すごく難しいところかなと思います。またそれに併せて、音楽作りに携わる様々なスタッフ等の人たちに対しても、同様の問題が生まれてきているのかなと感じます」(平氏)

 これに対して、FRIENDSHIP.運営メンバーが新たに取り組んでいるプロジェクトが「FRIENDSHIP. DAO」だという。以下がコンセプト動画であり、「音楽を実際に創る人だけでなく、音楽を取り巻く人までを巻き込んでコラボレーションできるような環境を作りたいという思いがきっかけだった」と平氏は説明する。

 DAOの全体の設計を担当したのは、Fracton VenturesのCo-founderでありCTOでもある赤澤 直樹氏。Fracton Venturesは、主にWeb3関係のプロジェクトに対して、インキュベーションや共同事業、調査研究等を行なっている会社である。日本初のWeb3特化型インキュベーションプログラム(Fracton Incubation 2021 powered by bitbank)を開催したことでも有名だし、2023年4月13日に神田明神でDAOに特化したコミュニティイベント『DAO TOKYO』(ハイライト動画はこちら)を主催したことでも知られている。

「よくWeb3の業界ではエコノミクスやエコシステムといった言葉を使いますが、要するに点と点をつないで面にして皆で良くなっていくみたいな、そういったアプローチに向いているのかなと思っています。先ほどの話にもあった通り、アーティストの音楽を作っていくプロセスにおいて非常に多くの人たちが関わっているわけですが、その音楽一つひとつを取り巻く色んな人たちの生態系というところにDAOのアプローチを使うことで、しっかり活性化させていきつつ、今まででは想像していないような新しい作品やプロジェクト等が出ていくといいなと思いながら取り組んでいます」(赤澤氏)

自然とDAOの活動に入っていけるようなインターフェース設計がポイント

 具体的な内容としては、上画像にある通り。アーティストと音楽をサポートする全ての人がダイレクトにアクセスできる音楽エコシステムを共に作り上げていくための、ブロックチェーンを使ったコラボレーションツールだという。

 一般的なDAOと同様に、メンバーシップNFTをもつメンバーだけがFRIENDSHIP. DAOのコミュニティに参加することができ、例えば楽曲制作含むアーティスト活動、さらには音楽全般にまつわる様々な取り組みについてコミュニケーション/コラボレーションできるようになっている。中でも一番の特徴は「Web3に詳しくなくてもシームレスにDAOコミュニティに入っていけるようなアプリ設計」だと赤澤氏は説明する。

「FRIENDSHIP. DAOのコミュニティに入る方々の多くは、Web3に強いわけではありません。例えば『ウォレットを連携してください』と言っても、それ自体が結構な障壁になるところがあります。ですから、まずは入口として再生数などの各種データを一括で確認/管理ができるようなダッシュボードを用意しており、そこからシームレスにDAOの活動の方へと入っていけるようなインターフェースで設計するようにしています。アーティストからすると『DAOをやるぞ』と思って入るのではなくて、『再生数が今いくらなのかな』くらいのきっかけでコミュニティに入ることができるようになっています。そこから、例えば再生数を伸ばしたいと思った際に、DAOの機能を活用して他メンバーにアプローチ等をしていただき、最終的に全体としてのエコシステムが発展していく。そんなアプローチをとっています。このように、Web2とWeb3の要素が混在しているような形でやっていっているというのが、一番の大きい特徴になっているのかなと思っております」(赤澤氏)

メンバーシップNFT例
アーティストページから作品をクリックした際の画面イメージ。作品に紐づいた様々な情報として制作メンバーのクレジット等が表示され、作品の関係者が視覚化されていく

 ここまで紹介された仕組みがうまく機能すると、アーティストの作品がより評価されやすくなり、クリエイター同士の出会いや繋がりも加速することになり、さらに音楽で収入を得られるアーティストも増えることになっていくことが期待されると、モデレーターの山崎氏は強調する。

 また、実際にアーティストとしてFRIENDSHIP.を活用している武田氏も、「アーティストが実際に困ることとこの3つがリンクしている」と表現し、FRIENDSHIP. DAOへの期待を口にした。

「アーティストの困りごとの1つ目は、よりいい作品を作ることだと思うんですよね。そのためには自分たちだけではなくて、他の人の助けが必要かもしれないという話があります。また2つ目は、それを広めるという点に課題があります。そして3つ目、これは最終系だと思いますが、自分たちが好きな音楽を作って、その音楽が評価されて、しっかりと収入を得て持続可能に生活できるようになる。そのように繋がってくるのかなと思います」(武田氏)

まずは11月5日「MUSIC NFT DAY 2023.」で会いましょう

 FRIENDSHIP. DAOでは現在、アーティストのメンバーを順次招待している段階であり、その後(2023)年末にかけて、今度は一般の人にも招待枠を増やしていく予定とのことだ。それに先駆けて、まずは「MUSIC NFT DAY 2023.」を2023年11月5日に開催するという。こちらは昨年の同日に初開催されたイベントで、コンセプトとしては以下の通り、公式サイトに記載されている。

Web3.0時代の音楽コミュニティーの拡張・発展を目指し、2022年より11月5日を一般社団法人日本記念日協会にて認定された記念日「音楽NFTの日(MUSIC NFT DAY)」として、”Music+Web3.0=Music3”というテーマで、ブロックチェーン上の一点モノデジタルオーディオデータ、「音楽NFT」を通じたファンダムエコノミー、クリエイターエコノミーといった様々な音楽の新しい表現方法の認知と普及を目指します。音楽NFTのリリース、音楽ライブ、展示会、カンファレンス、ワークショップなどを実施し、リスナーには「音楽NFT」を手にする喜びや新しい音楽の楽しみ方の共有、アーティストには新しいテクノロジーを使用した新しいアーティスト活動の提案を行う。

引用:MUSIC NFT DAY 2023. 公式サイト

 上の映像は昨年度(2022年11月5日)実施時のダイジェストムービー。これを流しながら、山崎氏は「音楽表現の選択肢としてのNFT」という観点で、平氏は今年のイベントの概要紹介という形でコメントし、セッションを締めた。

「音楽NFTって、どうしても作品をリリースするような機能だとか、になっちゃうとか、そもそものNFTを持っている/持っていないみたいな話とかになっちゃいがちですが、音楽の表現方法として色んな形を模索できるのではないか。そういったところで、業界としての大きなスタートラインなのではないかと感じています」(山崎氏)

「今年は渋谷ストリームホールを全館利用して、NFTリリースするアーティストのライブやグローバルなスピーカーを招聘したカンファレンスの実施、あとは本日のweb3BBのようにWeb3関連のブース展示なども予定しておりますので、音楽NFTを通じてどんな面白いことができるのかを、プロジェクト関係者か否かにかかわらず、来場者の皆様と一緒に考えていけたらなと思います」(平氏)

取材/文:長岡武司

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この記事を書いた人

人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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