アジアのWeb3スタートアップが語る「強気なマーケット」への期待 〜web3BB東京 2023ウィンターレポート

 2023年12月21日・22日にかけて開催された「web3BB Tokyo 2023 Winter」。日本発のグローバルweb3推進ビジネスコミュニティ「web3BB」の冬季カンファレンス会合として、当日は国内外様々なWeb3及びAIの有識者やスタートアップ関係者、エンタープライズ担当者等が集合し、多様なトピックを通じたディスカッションを繰り広げた。

初日、メイン会場のキーノートに登壇したザイン・ナクヴィ氏(写真右、Co-Founder, Alter LTD)とナジャ・ベスター氏(写真左、Co-founder, AdLunam Inc.)は共に、今後の重要トピックとして「Web3における倫理」を挙げた。またナジャ氏は「2024年以降はWeb3だけでなく、AIなど他のテクノロジー分野の融合が加速していく」とし、その上で「Web3はとても大きく、同時にとてもスピード感のある領域なので、全部理解しようとする必要は全くない。興味のあるものだけを選び、そこに時間とエネルギーを投資してほしい」と、参加者へのアドバイスを語った

 本記事では、同カンファレンスの中でも「今、web3はアジアが熱い!アジア市場最前線」と題されたWeb3ステージセッションについてレポートする。アジアの中でも、主に韓国で急成長するWeb3技術とそれらを扱うスタートアップ企業は、具体的にどんなことを考え、日々アクションをしているのか。新進気鋭のスタートアップ3社のコアメンバーらによるディスカッションの様子をお伝えする。

  • ジョン・ムイ(CEO, Moongate)
  • ジスーン・リム(CEO, 3PM Inc.)
  • ヘンリー・ウー(Head of Asia Business Development, Orderly Network)
  • 谷口 萌(Chief Marketing Officer, 株式会社DeFimans)※モデレーター
目次

米国での規制強化が、結果としてアジアの可能性を高めている

「3度目のクリプトウィンターを経て、特に韓国のブロックチェーン業界では現在、Web3の技術を金融面ではなく、エンターテインメントやゲームといった他の分野で利用する方法を模索しています」(リム氏)

 直近のWeb3トレンドへの所感を聞かれてこのように説明するのは、2021年から韓国を起点に音楽NFTのマーケットプレイスとNFTチケットのプラットフォームを運営している、3PM Inc. CEOのJisoon Lim(ジスーン・リム)氏。2023年12月22日の時点で140以上のNFTアルバムをリリースしている同社では海外パートナーとの連携を加速させており、日本でも株式会社チケミー(日本発NFT引換券販売プラットフォーム「TicketMe Goods」提供)との協業を発表したり、2023年11月5日開催「MUSIC NFT DAY 2023」へとパートナー参加したりするなど、積極的に活動している。

※MUSIC NFT DAY 2023を企画するFRIENDSHIP. DAOについては以下をご参照ください

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 金融面から非金融面へのWeb3活用の模索のきっかけとして、リム氏は韓国当局(FSC)によるセキュリティ・トークン(デジタル証券)規制の存在を挙げる。同国では2023年2月にセキュリティ・トークンに関するガイドラインを発表したわけだが、同氏の所感では特に既存の証券会社にとって大きなチャンスになるような内容であって、多くのスタートアップにとってはセキュリティ・トークンによる資金調達のハードルは依然として高いものだと言う。

「スタートアップとしてはフラストレーションを感じていますが、一方で証券会社や伝統的な企業は本当に興奮しています。現に大企業は、この業界の技術者やブロックチェーン関係者の採用を加速させている印象です」(リム氏)

 この規制の話に連動する形で、ブランドやイベント主催者向けのNFTチケット/メンバーシッププラットフォームを展開するMoongateの共同創業者兼CEOのジョン・ムイ(John Mui)氏は「米国での規制強化が、結果としてアジアの可能性を高めている」と説明する。同社は現在、20ヵ国・約7万人のエンドユーザーへとサービス提供しており、また世界中約150の音楽フェスティバル/カンファレンス/ブランド等との協業を進めている。

「2年前、私たちが事業を開始した当初、多くの新しい技術革新は米国で起こっており、私たちの顧客も大半は米国にいるという状況でした。しかし時間が経つにつれて米国政府によるクリプトへの規制が強化されていき、技術のトレンドが米国からアジアへと変遷していきました。過去2回の弱き相場と比較しても、アジアは間違いなくこの分野でのイノベーションの爆心地になっていると感じます。とはいえ、資金調達の観点から見ると、アジアは米国に比べてまだまだホットではないと感じます。クリプト市場全体が温まりつつある中において、これからどんどんと成長していくことが期待できるので、自分たちとしても非常に良いポジションにいると感じています」(ムイ氏)

 また、オーダーブック型(取引板)のDEXインフラを提供するOrderly NetworkのHead of Asia Business Developmentであるヘンリー・ウー(Henry Wu)氏も「アジアの多くの地域では、DeFiやNFT、そしてブロックチェーンベースのアプリケーションへの関心が高まっている」とし、以下のように事業状況を説明する。

「私たちの場合、DEXはまだ成長中で、(2022年10月にNEARブロックチェーン上で)メインネットをローンチしたばかりです。今月は1日の平均取引量が200万から400万程度でした。しかし幸いなことに、この24時間での取引量が爆増して1,000万近くに達しており、今月の累計取引数も8,000万にのぼっています。このように、DEXの成長はそのままWeb3マーケットの可能性を示していると感じています」(ウー氏)

 ちなみに上写真の投影画像は、Orderly Networkのエコシステムを表現したもの。CEXとDEXの特性を組み合わせたオムニチェーン取引インフラとして、NEAR ProtocolやArbitrum、Polygon、Avalancheといったネットワークレイヤーや、Google CloudやOptimismといったインフラレイヤー等、様々なパトなーとの連携を進めている状況だという。

アカウント抽象化技術がもたらす恩恵と問題点

 続いてのトークテーマは「昨今の気になる市場環境の変化」ということで、Orderly Networkのウー氏は自社プロジェクトが扱うオムニチェーン技術の必要性について言及する。

「クリプトの世界では様々な変化が起きており、どのチェーンが生き残り、どのチェーンが衰退していくかを判断するにはまだ早すぎます。そこで私たちは、Zeroオムニチェーンを利用することで、さまざまなチェーンの優位性を活かそうとしています」(ウー氏)

 ここで同氏が指しているのは、インターオペラビリティプロトコルの「LayerZero」技術だ。従来では異なるブロックチェーンネットワーク(マルチチェーン)間でのトークンの転送等を行う際にはブリッジ(クロスチェーンブリッジ)と呼ばれる技術手法を用いることになるのだが、ハッキングリスクや手数料(ガス代)の高騰、UXの悪さ等が課題として挙げられてきた。特にセキュリティ面については、フルスタック・オンチェーンデータプラットフォームを提供するToken Terminalによる2022年10月発表の調査結果にて、DeFiにおける不正流出の約50%がブリッジで発生しているというデータもあるくらいだ。

https://twitter.com/tokenterminal/status/1582376876143968256

 このようなブリッジの課題を解決するために設計されているのがLayerZeroである。詳細はホワイトペーパーをチェックいただきたい。Orderly NetworkはこのLayerZeroを採用することによって、マルチチェーン間におけるトークン移動を発生しないで済むようにしているというわけだ。

「ネイティブ・トークンは常にネイティブ・チェーン上に留まることになり、ユーザー側のプロセスが容易になるとともにコストも削減できます。また、どのチェーンも異なる目的を持っているので、特定のチェーンだけをフィルタリングして利用するというのもしんどい話です。だからこそ、私たちはオムニチェーン技術を採用して各チェーンの優位性を活かす形で開発を進めているのです」(ウー氏)

 3PMのリム氏からは、「2年前に発表されたものだから、技術者はもはや“トレンド”とは言わないだろうけど」と前置きをしつつ、「アカウント抽象化」技術への期待が語られた。

「今では多くの人がアカウント抽象化技術を使って、スマートコントラクトを活用したスマートウォレットを、あらゆる場面で使っています。何百ものサービスにおいてて、ユーザーがGoogleやKakaoのアカウントを通じてサインインするだけで自動的にウォレットが作成されるようになり、それがさらに普及を後押ししていると感じます」(リム氏)

※アカウント抽象化については以下の記事をご参照ください

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 一方でリム氏は、ウォレットサービスの選択肢が増えてアカウント開設のUXが高まるにつれて、新たなる問題がもたらされていることも指摘する。

「最近、多くの新規ウォレットが作成され、それらを通じてNFTやトークンが取得されています。これにより何百、何千ものサービスが独自のウォレットを持つようになってきています。このように、ウォレットとサービスが増加することでエコシステムは細分化されてしまっています。ウォレットの普及にこそ寄与しているものの、例えばデータ分析の観点から見るとほとんど意味のない情報となってしまっています。この状況は、Web3技術が提供するはずの利点の一部を打ち消してしまっているように感じます。中長期的にはこれら細分化されたエコシステムを統合することが、重要な解決策となるでしょう」(リム氏)

 Moongateのムイ氏も、ウォレットの進化がこの数年での最も大きな変化だと続け、「革新的な技術が非常に広く使われる段階にいる」ことを強調する。

「以前だと秘密鍵と12のシードフレーズを用いて取引所に資金を移動し、KYCを経て取引所から自分のMetaMaskに資金を移動し、その資金を使って各トークンに投資する必要がありました。とても煩雑で、一般の方々にとっては非常に馬鹿げたプロセスだったと言えます。一方で先ほどジスーン(リム氏)が言った通り、Googleログインですぐにウォレットが作成できるようになってきているので、それこそEventbriteやlumaなどのプラットフォームと同じような体験にまで持ってくることができています。このイノベーションは、今後10億人規模のユーザーをWeb3に取り込むことができると考えています」(ムイ氏)

日本におけるWeb3ビジネスの可能性もどんどんと高まってきている

 もう一つ、Orderly Networkのウー氏は日本に対する所感として、「多くのWeb2企業がWeb3領域へと移行しようとしているように見える一方で、規制が制約となってなかなかうまくいっていないように感じる」とコメントしつつ、2023年12月22日に閣議決定された「令和6年度税制改正の大綱」における、他社発行トークンを期末時価評価課税の対象外にする方針への期待を述べる。

 自社発行トークンについては、国税庁が2023年6月20日に「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」を発出し、その中の法人税基本通達関係において改正対象に含まれることとなったことで、期末時価評価課税の対象外となることが決定した。今回の話は、「次は他社発行トークンで短期売買を目的としないアライアンス系ガバナンストークンの時価評価を外す件」だと、衆議院議員の平 将明氏は当時のX(旧Twitter)投稿でコメントしていた件である。

※この辺りの経緯については以下の記事もご参照ください

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「この税制改正によって法人によるWeb3投資がより進みやすくなることが想定されるので、日本におけるWeb3ビジネスの可能性もどんどんと高まってきている印象です」(ウー氏)

 最後に、各メンバーから「アジア市場への期待のメッセージ」が寄せられて、セッションが締め括られた。

「資金調達が難しい環境が続いてきた一方で、優秀なスタートアップはまだまだ資金を得られると思います。現に私たちも本日、リードインベスターのタームシートが確定したところなんです。クリプトウィンターのような弱気な市場の中においても、信念を持ってビジネスを続けているという事実が、ここにいる私たち全員を物語っていると思います」(ムイ氏)

「完全に同感です。アジアはWeb3のみならず、様々な産業領域含めて大きな変化の中にあると感じており、みんなで一丸となって進めていくフェーズだと思っています」(リム氏)

「中国のいくつかの地域ではWeb3を導入しようとしていますし、韓国ではゲームとNFTが非常に強力です。また、シンガポールと日本は多くのブロックチェーンスタートアップに友好的と言えます。来年以降のステーブルコインの解禁や、中国におけるDeFiの盛り上がりも踏まえて、アジアのWeb3は全般的に非常に強気なマーケットだと思っています」(ウー氏)

取材/文:長岡 武司

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この記事を書いた人

人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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