ETHGlobal Tokyoがスタート!Opening Ceremoniesの様子をレポート #ETHTokyo #ETHGlobal

 2023年4月14日、3日間にわたって開催されるグローバルハッカソンイベント「ETHGlobal Tokyo」がスタートした。

 Ethereum(イーサリアム)をはじめとするWeb3の「エコシステム」に焦点を当てた国際的なハッカソンシリーズである本イベントでは、開発者をはじめ、起業家やデザイナー、研究者など、Web3領域に興味を持つメンバーが世界中から集結し、約1日半(36時間)かけて新しいアイデアやプロトタイプを開発していく。一般的なハッカソンと同様に、ETHGlobal Tokyoでもプロジェクトごとに会場に集まったメンバーが任意でチームを組み(最大5名)、スポンサー各賞や上位10チームの選出に向けて、4月16日(日)AM9:00までに様々なツールを活用してプロトタイプを構築して運営チームに提出することになる。

 本記事では、会場の熱気をお伝えするべく、オープニングセレモニーの様子をレポートする。

目次

Ethereumのエコシステムの一翼を担うETHGlobalが日本で初開催

“This is not a conference”(このイベントはカンファレンスではありません)

 セレモニー冒頭でこのように強調するのは、ETHGlobalのCo-FounderであるKartik Talwar氏。2017年にはじめてETHGlobalがイベントをローンチして以来、ずっと同団体を牽引してきた人物だ。(同氏が通学していたウォータールー大学(Waterloo)にちなんで、2019年まではETHGlobalではなく「ETHWaterloo」という名称で活動されていた)

 同イベントはあくまで「ハッカソン」に力を入れているのであり、一般的なカンファレンスのように参加者として受動的に情報を得るのではなく、「ビルダーを中心に学び、指導し、成長する」こと、そして「話すことよりも見せること」に重きを置いて参加することが望ましいと、同氏は説明する。そのため、ETHGlobal Tokyoでは28名のテクニカルメンバーがサポートしており、また22のワークショップが用意され、ハッカーら参加者が自由に活用できるようになっている。ちなみに、期間中に開催されるトークセッションは全部で9つのみ。手を動かすことにフォーカスした設計となっているわけだ。

 これまで様々な国・地域で行われてきたETHGlobalだが、日本で開催されるのは初。Talwar氏によると、開催時点での参加者属性は以下の通りだという。

  • 総参加者数:59ヵ国1500名以上(うちハッカーは1070名)
  • 参加者の70%はアジアから(日本参加が40%、他アジア諸国が30%)
  • 参加者の35%はWeb3初心者

 そんなETHGlobal Tokyoでは、大きくメイン審査とパートナー審査が行われる。メイン審査は、ETHGlobal Tokyoでのファイナリストを競うもので、上位10チームだけが選出されることになる。一方でパートナー審査とは、MetaMaskやPolygonなど、本イベントのパートナーである38の企業・プロジェクト等による審査のこと。各パートナーからはテーマに応じて賞金等が用意されている。詳細はこちらのページをご覧いただきたい。当日はこの中から以下の7プロジェクトが、パートナー紹介としてピッチをしていった。

DeFiプロトコを提供する1inch Network(by Gleb Sychev氏)
現時点でソフトウェアウォレットのデファクトスタンダードとなっているMetaMask(by Francesco Andreoll氏)
Ethereum レイヤー2のスケーリングソリューションの一つ(zk-Rollup)を開発するTaiko(by Daniel Wang氏)
最も有名なEthereum レイヤー2ソリューションの一つであるPolygon(by Kevin Ang氏)
旧名「WorkDAO」として知られるTOKU(Dominika Stobiecka氏)
ゼロ知識証明(ZKPs)を活用したセキュリティソリューションを提供するMina(by Angus Maidment氏)
OpenAIのサム・アルトマン氏ら立ち上げたWorldcoin(by Miguel Piedrafita氏)

「オープンラーニング」こそが重要なポイント

 オープニングセッションの最後を飾ったのは、2018年2月よりEthereum Foundationのエグゼクティブ ・ディレクターを務める宮口 あや氏。同団体のトップとして、Ethereumの研究開発支援とオープンソースコミュニティの発展、エコシステムの教育に努めている人物だ。同氏からは “Open Learning in the Infinite Garden”(Infinite Gardenにおけるオープンラーニング)というタイトルで、ETHGlobal Tokyoでの学びを最大化するためのお話が、参加メンバーに向けてなされた。

 Infinite Gardenとは、「Ethereumの心」を維持するべく、宮口氏らが提唱したビジョンのこと。同氏は、この概念を説明するにあたって、アメリカの学者であるJames P. Carseの著書「FINITE AND INFINITE GAMES」の一節を引用する。

“A finite game is played for the purpose of winning. An infinite game for the purpose of continuing the play.” ~ James P. Carse
「有限のゲームは、勝つことを目的に行われる。無限のゲームは、プレイを継続する目的のために行われる。」

 この一文は、Ethereum Foundationの公式ページにも記載されている。ここに描かれているとおり、Ethereumは単なる技術としての存在ではなく、「人々のコーディネーションをするためのプロトコル」だと言う。

 社会における様々な「不」を考えたとき、それは多くの場合において人同士のコミュニケーション齟齬に起因していることは、多くの人が経験のあることだろう。このコミュニケーション齟齬に対して、Ethereumというプロトコルがコーディネーションの役割を担うことで、個人と組織が発展していく。つまり、プロトコルの発展が社会の発展に寄与するという、ポジティブな循環(エコシステム)が生まれると言う考え方なのだと、筆者は解釈している。

 今回のETHGlobal Tokyoでも、このような無限のゲーム(infinite game)はプレイできる。というか、ETHGlobalという場こそがそのようなEthereumエコシステムの一翼を担っているわけであって、メンターや参加者同士が教え、また教えられる関係性の文化が根付いているという。

「オープンソースのプラットフォームであるEthereumは、誰でもコードを見ることができることから、学習という視点で見ると透明性が高く、包括的でもあると言えます。でも今日お話したいのは、Ethereumにおいての“学びの文化”がどのように進化してきたのか、そしてオープンネスという文化がどのように学習をより効果的にするのかということです。私はこれを『Open Learning(オープンラーニング)』と呼んでいて、Infinite Gardenの中でも非常に重要なポイントだと捉えています」(宮口氏)

Ethereumエコシステムから考える「循環する学び」の素晴らしさ

 たとえば「Scaffold-eth」というツールは、Ethereum上での素早いプロトタイピングのための既製のスタックを提供していて、ステップ・バイ・ステップでEthereumベースのdApp構築を習得できるようになっている。

 実はこのツールはもともと、Web3を初めて使う開発者を抱えていたAustin Griffith氏が、自分たち用に構築したものだったという。今では、このチュートリアルで学ぶ開発者が多くいるわけだが、「面白いのは、このチュートリアルで学んだ人たちが、他の人が学ぶための学習ツールを作ることに興味を持つようになったこと」だと、宮口氏は続ける。

「Austinと彼の仲間たちは、学習チュートリアルを構築するビルダーたちのコミッティーであるBuildGuildを立ち上げたわけですが、たとえばShivさん(shivbhonde.eth)はScaffold-ethで学び、今ではScaffold-ethを作る立場になっています。これ、すごくないですか?」(宮口氏)

 もう一つ、BuildGuildコミッティーのビルダーが、他の学習コミッティーから学びを得たというエピソードも宮口氏より紹介された。0xPARC財団が運営するコミュニティ(0xPARC)では、ゼロ知識証明を応用した様々なプロジェクトの支援や、ゼロ知識証明そのものの学習機会を提供しており、そこにBuildGuildのビルダーであるcalvin氏(calvinquin.eth)がジョインしたという。その後、BuildGuildに戻った同氏は、以降のユーザーに対してスマートコンピュータを使ったZK回路の使い方を教えるために、3部構成のシリーズを構築。驚くべきことに、BuildGuildのビルダーであるAustinもそこで学習を進め、現在ZKアプリについて知っていることのほぼ90%をチュートリアルを通じて学んだという。

「私は以前、高校の教師をしていましたが、教師が生徒から学ぶ姿勢をもつことで学習効果が最大化することを目の当たりにしてきました。でも、コミュニティにおけるオープンラーニングの力は、それ以上です。一人の教師がみんなに教えるのではなく、教え方を生徒に教え、生徒が先生となるのです。今回のハッカソンにおいても然り。3日以内に完璧に完成したプロダクトを作ることが目的ではないはずで、それよりも、あなたが今まで知らなかったことを学び、すでに知っていることを他の人と共有することの方がずっと大事です。あなたが得た知識は、未来へと波及し、同じような活動/取り組みや冒険をしている人を助けるかもしれません」(宮口氏)

Happy hacking, everyone!

 では具体的にどのようなマインドでETHGlobal Tokyoに向き合えばいいかについて、宮口氏は以下の3点を挙げる。

  • 失敗から学ぶ
  • チーム活動から学ぶ
  • 特定分野のエキスパートやメンターから学ぶ

「特に『①失敗から学ぶ』については、完璧であるようにある種訓練されている日本人にとっては、非常につらいことだと思います。私自身も苦しんだ経験があります。一方で、開発者であれば失敗することの大切さを経験されているのではないでしょうか。Ethereumのプロトコル設計も、数多くの失敗から成り立っている。初期のシャーディングやプルーフ・オブ・ステークの設計も、当初はスマートコントラクトの中に実装しようとしたものだったわけですが、研究者がアーキテクチャに入れ込んでみて初めて、様々な限界の発見に至りました。Danny Ryan(イーサリアム財団のコアリサーチャー)は、この話を私にしたとき『6〜12ヵ月の仕事を投げ出すことは、常に膨大な学習と結びついている』と言いました。それは、直近の開発だけでなく、何年も先の研究やデザインプロジェクトにも活かされるということです。ハッカソンの良さは、失敗しても何の影響もないことです。だから、あなたの学びを助けるものだと信じて、たくさん失敗していってください」(宮口氏)

 この話に付随して、宮口氏は最後に、日本人参加者とのチームビルディングをするにあたってのアドバイスや思いを口にして、オープニングセッションを締め括った。

「日本人は、自分の得意なことを伝えるのが何かと苦手です。自分が何のエキスパートなのかをなかなか明言しない傾向があるのですが、今夜日本人のハッカーを見つけたら、ぜひ1人か2人、自分のチームに招き入れてみましょう。英語でread between the linesという表現があるのですが、日本人は“行間を読む”のが非常に上手です。ですから、チームプレーを要することに対して非常に長けています。また、これは日本人に限らず、多様性があればあるほど創造性も高まります。異なる視点から物事を見ることでクリエイティビティが生まれることが、数々の研究で明らかになっています。ですから、このハッカソンではぜひ、多様なメンバーによるチームメイキングを実践してみていただきたいです。

以上、今日の私のお話をまとめると、オープンラーニングを実践し、そのための無限の先生達(infinite teachers)を見つけましょう。皆さまが素敵な学びの時間を過ごせることを願っています。Happy hacking, everyone!」(宮口氏)

宮口氏から案内された参加者専用アンケート。ETHGlobal Tokyoで得た無限の先生(infinite teachers)体験の体験知が、東京からも溜まっていく

取材/文:長岡 武司

※ETHGlobal Tokyo 2日目のコンテンツも近日公開予定です。公開後にTwitter投稿するので、ぜひフォローをお願いします!

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この記事を書いた人

人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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