Web3メタバースの運営者がトークンを活用する理由 〜NFTokyo2023 レポート#3

 2023年6月22日に東京国際フォーラムで開催された、国内最大級のNFTカンファレンス「Non Fungible Tokyo 2023」(以下、NFTokyo2023)。当日は国内外より様々なステークホルダーが参加し、セキュリティやメタバース、レギュレーション、コミュニティ運営など、NFTにまつわる様々なテーマでのセッションが展開された。

 第三弾レポートでは、「多様なWeb3 Metaverseがプロジェクトが考えるMetaverse空間とは?」と題されたセッションについて見ていく。

登壇者

  • Theophane Ramé(Eldora)
  • Dochin Lai(PARALAND)
  • John Fung(Gemie)
  • Yu Ayato(Japan Blockchain Week / BAYCJapan)※モデレーター
目次

三者三様のWeb3メタバースのテーマ

 まずは自己紹介を兼ねて、各登壇者が取り組むプロジェクトについて、それぞれ紹介がなされた。

 John Fung氏(写真左)がCo-Founderを務める「Gemie」は、ファンカルチャーを創るために2021年に構築された、アジアのエンターテイメントに特化したメタバースプラットフォームだ。同プロジェクトでは韓国を中心に複数の芸能事務所やプロダクション等とパートナーシップを結んでおり、画像にあるような独自のワールドにてライブコンサートや映画のプレミア上映会、グリーティングなどの各種イベントを開催している。特に「Gemie VIP Pass」(記事執筆時点でSOLD OUT)と呼ばれるNFTを保有していると、パス保有者だけが推しのアーティスト等との交流を楽しむことができるという。また、K-POPグループの「P1Harmony」や「Cherry Bullet」のオリジナルNFTコレクションも展開しており、ミートアップやチケット販売の優先権、ライブイベントへのアクセスといったユーティリティが用意されている。

 つまり、ユーザーとn対nの交流を楽しむというよりかは、アーティストとファンという関係性にある程度特化したNFTマーケットプレイスとしてのメタバースとなっており、アーティストのバーチャルハブであると同時に、ファンのためのバーチャルファンクラブとしての機能が想定されて設計されている。詳細は公式ページのほか、Mediumでも詳しい説明がなされている。

 続いて、Dochin Lai氏(写真左から2番目)がCEOを務める「PARALAND」は、位置情報サービスを利用して現実の地図との位置関係に基づいてプレイできるメタバース・ゲームだ。同氏は「『ポケモン GO』と『Zendy』を合わせたようなものだ」と説明しており、ユーザーが無料でプレイ開始ができるFree-to-Play-to-Earnモデルを採用している。主なゲーム内容は領地争奪戦(マップが均等に複数の正方形領地に割られ、その領地を占領していく)で、他ユーザーの領地を占領していくことでゲーム内通貨(mPARA)を稼ぎ、それを公式マーケットプレイス(PARAMarket)を通じて暗号資産($PARA )に変えることができる仕組みとなっている。NFTは、ゲーム内アイテムとして購入が可能で、マーケットプレイスでの売買もできるようになっている。

 Lai氏によるとプロジェクトは大きく3つのフェーズに分かれており、ゲーム展開を進める第1フェーズの次は、現実空間の店舗等との連携(バーチャル店舗の出店や広告の展開等)を強化するOMO施策を推進し、さらに第3フェーズにてランドシステム(自分専用の土地を運用できる仕組み)のリリースや、それに付随したリアルタイムイベント等の設計を計画しているという。

 そして3人目のTheophane Ramé氏(写真左から3番目)は、スイスのファミリーオフィス(Caravage)のマネージングパートナーを務めてきた人物だ。ファミリーオフィスとは、超富裕層の家族が、自分たちの資産管理のために設立する会社のこと。富裕層のお金の流れに知見のある同氏だからこその取り組みとして同氏が力を入れて展開しているのが、金融ハブメタバースの「Eldora」だ。ユーザーは、他ユーザーや土地を持っているファミリーオフィスとの情報交換を通じて、興味のあるプロジェクトへと直接かつ共同で投資ができるという。

 2023年3月にα版がリリースされたばかりとのことだが、すでに様々なファミリーオフィスが参加している他、Web3バンキングサービスや資産運用のためのアドバイザリーサービスなど、複数のユーティリティが実証的に展開されている状況とのこと。コアコミュニティに参加するための「Eldoran Pass」が、NFTとして発行される予定だ(現在はウェイティングリスト展開中)。

オンボーディング・プロセスのシンプルさが鍵になる

 三者三様のメタバースが説明される中で、共通しているのはNFT等トークンによる何らかのインセンティブが設計されている点にある。既存の多くのメタバースにはこれらのトークン要素(何らかの暗号資産との関連要素)は実装されていないわけだが、各登壇者はなぜトークンの実装にこだわったのか。

 これについてPARALANDのLai氏は、「中央集権的な主体に支配されることなく所有権を行使できることに大きな価値があるだろう」と説明する。

「ユーザーは第三のエンティティに左右されず、自分の所有権を主張でき、自由に別のメタバースへとジャンプして、同じDID(分散型ID)を使用することができます。メタバースでのPlay-to-EarnやPlay-and-Earnの本来的なコンセプトを実現するにあたって、とても大事なことだと考えています」(Lai氏)

 また、GemieのFung氏は「デジタル所有権の有無」と「情報の透明性」について、EldoraのRamé氏は「価値の移転」について、それぞれメタバースに実装する動機の所在を述べた。やはりどの登壇者も、中長期的なメタバース間のインターオペラビリティを想定して、アイテムやアバター等あらゆる空間内エンティティが個人の所有物として帰属することに可能性を見出しているようだ。

 また「メタバースに惹かれる理由」を問われると、Fung氏は「そのユーティリティと視覚的なインパクトにある」と説明する。

「Metaによるメタバースはいろいろと言われていますが、私はいいアイデアだと思います。日常生活に応用できるのであれば、実に興味深いことです。特にパンデミックの影響で在宅勤務を始めた人も多いでしょうから、エンタメを展開する際の新しい可能性として注目しています」(Fung氏)

 では、メタバースが普及するのは一体いつになるのか。かつてセカンドライフが大いに注目された2008〜2009年を第一次ブームとすると、2022年におけるメタの発表とそれに付随する注目が第二次ブームと考えられるだろう。その過剰な盛り上がりもいったんは収束したところで、各者はマス・アドプションをどのように捉えているのだろうか。

 Ramé氏は「もっと実生活に役立つユーティリティの実装が普及の鍵になるだろう」と説明し、そのためにもゲーム以外に要素として、電子商取引や金融機関とのシームレスな連携が不可欠だと説明する。

 またFung氏は、「人々がメタバースに慣れメタバースでできることを知り、そのコンセプトに慣れるには本当に時間がかかるだろう」と前置きした上で、メタバースへのオンボーディング・プロセスは可能な限りシンプルにしなければならないと強調する。
「私たちGemieはエンターテインメントのメタバースですから、ユーザーはK-POPスターやJ-POPグループのファンです。そして、彼らの90%はクリプトネイティブではありません。彼らはMetaMaskが何なのかを知らないし、ブロックチェーンで何ができるのかにも興味がないでしょう。だからこそ私たちは、大衆のためのエンターテインメント・メタバースとして、彼らに何をすべきかを教え、同時にできるだけ簡単に使い始めることができるようにしなければならないと考えています。メタバース以外のBCGと同様、オンボーディング・プロセスをシンプルにして利用開始のハードルをとことん下げることができれば、メタバースを利用するユーザーも採用する企業も加速度的に増えていくだろうと思っていますし、私たちはそこにチャレンジしています」(Fung氏)

取材/文:長岡 武司

Non Fungible Tokyo 2023レポートシリーズ

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この記事を書いた人

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