「DAOは学園祭のようなもの」組織開発×DAOを考える1日に密着〜ODNJ Future Conference 2023レポート

 2023年3月2日、特定非営利活動法人OD Network Japan(以下、ODNJ)主催のカンファレンス「ODNJ Future Conference(未来カンファレンス)2023」が、東京・大手町(3×3 Lab Future)にて開催された。

 ODNJとは、組織開発(OD:Organization Development)にかかわる実践者と研究者がネットワークでつながり、ともに学び、効果的で健全な組織づくりに向けて協働するコミュニティ。国内におけるODの定着と、その機能をもつ部門や人々(チェンジ・エージェント)がさまざまな組織に存在している状態を目指して活動している団体だ。

 約3年ぶりのオフライン開催となった本カンファレンスのメインテーマは、「Web3時代の自律型組織を考える ~イノベーションをうむ企業DAO(自律分散組織)の可能性~」。当日はODNJの理事メンバーをはじめ、ONE JAPAN 共同発起人・共同代表の濱松 誠氏、DAO総研からはFounderの遠藤 太一郎氏とパートナーの藤野 貴教氏がそれぞれ登壇し、またセッション冒頭には衆議院議員の平将明氏からのビデオメッセージも寄せられた。

平 将明氏(衆議院議員・自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム 座長)からのビデオメッセージの様子。「あらゆる局面でDAOが活用され、さらには組織の本流にもDAOの仕組みをビルドインしていく流れは不可避である」ことが強調され、それに向けた環境整備の必要性と国会等における提言等への姿勢が示さた

 主体的・自発的に機能する自律分散型組織はどのようなもので、企業組織にそのアプローチはどんな形で展開し得るのか?当日の講演およびディスカッションの様子をレポートする。

目次

トライ&エラー&ラーンで実際に行動してみることが大事(ONE JAPAN 共同発起人・共同代表 濱松 誠氏)

濱松 誠氏(ONE JAPAN 共同発起人・共同代表)

 はじめにオープニングスピーチとして登壇したのは、ONE JAPANの共同発起人・共同代表の濱松 誠氏。新卒でパナソニックに入社し、人事・ベンチャー出向を経て退社した後に、現職として企業の人材・組織開発支援やコミュニティ運営等を手掛けている人物だ。

 ONE JAPANと言えば、「挑戦の文化をつくる」をミッションに掲げ、大企業の若手・中堅・ミドル社員を中心とした約50の企業内有志団体が集う「実践コミュニティ(Communities of Practice)」を運営する団体である。実践コミュニティとは、共通の専門スキルや、ある事業へのコミットメント(熱意や献身)によって非公式に結びついた人々の集まりのことだと、濱松氏は説明する。

 実践コミュニティの一例として挙げられたのが、同氏がパナソニック在籍時より取り組んできた「One Panasonic」だ。濱松氏が入社した当時は、組織のサイロ化やトップとの距離の遠さ、モノカルチャーな風土、「どうせ言っても無駄症候群」など、様々な大企業病の症状が同社内に存在していたという。

 一方で、そのような状況に対して「変化が必要だ」という意識を持っていた若手・中堅のメンバーも多く存在していたことから、社内交流・組織活性化を促す団体としてOne Panasonicの立ち上げにつながったというわけだ。

One Panasonicメンバーの集合写真。2012年に濱松氏が当時の社長(大坪文雄氏)に直接メールをして対話をしたことをきっかけに立ち上がったOne Panasonicは、現在では社長や役員、ミドルマネジメントを巻き込んだ社内の重要な繋がりを司る取り組みとして、多くの従業員が参画している

 One Panasonicの立ち上げを一つの原体験として2016年に発足されたONE JAPANは、現在(2022年9月時点)55社、約3,000名が有志で加盟する団体にまで成長しており、大企業同士のみならず、大企業とスタートアップによるオープンイノベーションや、社内起業家を増やす取り組み、さらには本カンファレンスでも登壇する藤野 貴教氏と共に取り組んでいるミドルマネジメント向けの変革型リーダー創出プログラムなど、多様なアプローチで「挑戦の文化」づくりを進めている。

 そんな濱松氏からは最後に、これまでの活動を通じて感じている「自律分散型組織の鍵」についての考えが説明された。

「DAO(自律分散型組織)については、多くの人にとって永遠のテーマだと感じていて、セルフマネジメントが求められるだとか、実現に時間がかかるとか、セキュリティ上の問題や法規制があるなど、言うのは簡単だけど実行が非常に難しいものだと考えられていると思います。じゃあ何もしないで待っているだけかと言うとそうではなくて、トライ&エラー&ラーンで実際に行動してみる。失敗するかもしれないが、それが実は失敗ではなく素晴らしいものなんだと考えることができるような文化にしていくことが大切だと考えています」(濱松氏)

「管理職の罰ゲーム化」から見える中央集権型マネジメントの限界(ODNJ 理事 渡邊 壽美子氏)

渡邊 寿美子氏(ODNJ 理事)

 今回のカンファレンスでは、参加者同士によるグループディスカッションが重視されているわけだが、そのためには土台となる前提知識が必要となる。ということで、まずは「組織の今と組織開発の新しい意義」というタイトルで、ODNJ理事の渡邊 壽美子氏が昨今の組織開発における意義について説明した。

 そもそも従来型の組織開発においては、前提として組織に対する所属意識が高いメンバーが想定された上で、組織の目的を自分ごとにして主体的に工夫できる人を増やすことや、組織の状態を皆で見て対話をすることなどが、普遍的な組織開発の意義として志向されてきた。

 一方で現在においては、メンバーの所属意識がバラバラであることが前提であり、以下の通り、大きく3つの「新しい意義」が考えられる状況となっている。

「右上にあるような所属組織の目的やパーパスを深く理解して所属メンバーの心を一つにするという意義(①)もあれば、目的や意味づけや課題を各メンバーが素早く納得して当事者意識と個人のポテンシャル・意欲等を引き出すという意義(②)、さらには、曖昧な状況のなかで多様な価値観やモチベーションを持つ人の中で、複雑な課題を認識してリモートであっても参画意識を高め、学習を促進して成果を達成してシェアするという意義(③)も考えられます。このような新しい組織開発の意義が出てきていると感じています」(渡邊氏)

 たとえば昨今で多くの企業が着手しているDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトを考えてみると、DXという手段(HOW)にばかり目がいってしまい、その先にある本質的な目的(WHY)が十分に共有されないことが往々にして発生している。このようなケースにおいて、組織開発の領域では②の「プロジェクトの目的や意味づけや課題を各メンバーが素早く納得して当事者意識と個人のポテンシャル・意欲等を引き出すという意義」が着目されているというわけだ。

 このような状況の中、今組織開発の領域では「管理職の罰ゲーム化」が大きな問題になっているという。これはパーソル総合研究所 上席研究員の小林 祐児氏が提唱している考え方なのだが、要するに以下の表のオレンジ枠に書かれているような職場環境における課題は、いずれも現場のマネジメント能力によって解決されようとしている。つまり、「なんでも管理職任せ」になって属人的なマネジメント対応を求めることがある種の前提になってしまう可能性が高い状況というわけだ。

 従来のように労働力人口がある程度担保されていて管理職の人口も一定数保たれている状況であればこれでも問題としては小さいのかもしれないが、今後管理職の人口は確実に減少することが想定されるからこそ、このままでは管理職、特にミドルマネジメント層が潰れてしまうのも時間の問題だろう。

 このように、これまでのような中央集権型のマネジメントが徐々に機能しなくなる時代だからこそ、組織をどのように活性化するのかが課題となっているのであり、そのためのアプローチの一つとしてDAOのようなあり方への注目度も高まっていると言える。

日本とグローバルで微妙に異なるテクノロジーの影響予測(ODNJ 理事 清宮 普美代氏)

清宮 普美代氏(ODNJ 理事)

 もう一つの参考情報として、今度はODNJ理事の清宮 普美代氏より、同法人の法人委員会に対して行われたアンケート結果から考えられる「未来シナリオ予測」(確実に起こっていること、起こらなさそうなこと等)が共有された。

「まずは関心のあるワードについて調べてみたのですが、DAOこそ10位に入っているものの、Web3とかブロックチェーンなどは正直興味がないと言えるでしょう。今やっていることで精一杯なのに、さらに何か新しいことをやらないといけないのか、という印象があるわけです。これに対して『そうじゃないのではないか』ということを、今日はお伝えしたいと思っています」(清宮氏)

 そのために清宮氏が行った法人委員会に対するアンケートが先述した「未来シナリオ予測」(回答者が0点〜6点の間で、現実に起こっている具合を集計したもの)ということだが、まずは「既に起こっている」および「これから起こりそう」だとされている内容が以下となる。

 一方で、少なくともアンケート結果において「起こらないだろう」とされているのが以下の内容だ。

 たとえば2番目のデジタル証明書の進化による学歴の陳腐化については、法人委員会のアンケート結果では起こらないとされているものの、グローバルな調査においては4人に1人が「10年以内に起こる」と予測していることから、国内外でのギャップが大きい領域とも言えそうだ。

 そして、「微妙にイメージがわかない」テーマの筆頭として出てきたのが「DAO」「メタバース」「拡張現実(AR)」等のテックテーマである。巷では「DAO作成ツールなどが提供され、プロジェクト毎のチームづくりに活かされる」「それによって業務や貢献の見える化や、意思決定の分散化が起こってマネージャーの負荷が減る」と言われているが、果たして本当にそうなのか?そもそも、どうやってそのような劇的な効果を享受することができるのか?OD領域においてはテクノロジーに対する苦手意識があるという自覚がある人が多いとのことで、それ故にこのような結果が出てきているのかもしれない。

DAOを捉える時に大事な「選択肢・レイヤーが増える」という考え方(DAO総研 Founder 遠藤 太一郎氏)

遠藤 太一郎氏(DAO総研 Founder)

 OD領域におけるインプットが終わったところで、今度は本カンファレンスのメインテーマの一つである「Web3とDAO」について、DAO総研 Founderの遠藤 太一郎氏より考え方の解説がなされた。

 遠藤氏と言えば、これまで25年以上AI開発に携わっており、AIスタートアップのボードメンバー(AI技術統括)として上場を経験。数百にものぼるAI/DX関連の案件に携わり、機械学習エンジニアの組織開発を率いてきた人物だ。数年で数名から400名超のエンジニア組織として成長を支えてきた経験を経て「より自分を活かし、いきいきと働く社会を実現したい」と考えたことから、DAOの普及に貢献すべくDAO総研を立ち上げたという。

 そんなDAOの専門組織を立ち上げた遠藤氏は、冒頭で「今のWeb3は、ピュアな新しい価値観と、仮想通貨への投機的な動きが入り混じったカオスな状況だ」と表現し、以下の図をもって説明する。

「Web1.0〜Web3までのネットの特徴を比較するものとしてよく出てくるこちらの図ですが、ここで一つ強調したいのは、Web3の登場が『従来のWeb1.0・Web2.0の置き換え』ではなく、選択肢およびレイヤーが増えるイメージなんだということです。Web3の話をされるとき、そんな理解でいると良いのかなと思います」(遠藤氏)

 Web3を考える上でポイントとなるのが「デジタル空間における所有権のあり方」である。これまでブラウザ等を通じてアクセスできるデジタル空間では、様々なデジタルデータが何かしらのコンテンツとなって表現されてきたわけだが、基本的にこれらは“コピーし放題”であることが所与となっていた。もしもデジタル上で「これは本当に自分が所有しているものだ」ということを表現するのであれば、銀行やアプリ事業者をはじめとする第三者に証明をしてもらうしかないわけで、アカウント削除など、生殺与奪権をその第三者に握られていることになる。

 このような状況を「富と権力の集中」と捉えるのであれば、Web3というムーブメントそのものが、このような一部のプラットフォーム事業者による富と権力の集中に対するアンチテーゼから始まったものと言え、それ故に「パワー・ツー・ザ・ピープル」「非中央集権としての自律分散型社会」を目指すものとなっていると表現できる。

 以上の背景を踏まえた上で話を元に戻すと、もしもオンラインでの「所有権」、つまりは「これは本当に自分が所有しているものだ」ということを表現できるとしたら、本質的にその役割を担っていた第三者への依存が不要となり、結果として自律分散型の社会の構築に寄与する。それを実現するのがブロックチェーン技術であり、その結果のデジタル空間のあり方がWeb3ムーブメントというわけだ。これについて遠藤氏は、デジタル空間における「直接価値交換」の仕組みとして以下のとおり説明する。

「ここにある通り、第三者に依存せずにオンライン上で直接の価値交換が可能になったというのがポイントです。それによって新しいビジネスや、DAOのような組織のあり方、社会変革などが起こり始めているというのが、Web3の本質的な話というわけです」(遠藤氏)

 では、Web3における新しい組織のあり方として注目されるDAOとは、具体的にどのような概念なのか。実は遠藤氏は、まだ明確に定まった定義というものは存在しないと言う。

「ここに挙げた5つの特徴を全て満たしたDAOは、一部Bitcoinなどは限りなく完成形に近いものの、ほぼ現存しません。実態としては、立ち上げ時からいきなり自律分散は難しく、最初は特定のリーダーが中央集権的に引っ張っていくことが多い印象です。また、DAOを目指しているという意味でDAOを名乗ることもあれば、DAO的コミュニティとするケースもあり、トークンを活用した組織運営の効率化・理想化を模索するものは『トークナイズドコミュニティ』とも呼ばれます。いずれにしても、DAOの実態はすごく変わってきていて、まだまだ進化し続けるというのが、今の状態だと言えます」

 DAOの考え方を個人としての働き方の目線で捉えると、以下のような「選択肢」が増えることが考えられる。

「もちろん、一社にコミットして働きたいという方もいらっしゃると思うので、DAOの登場はあくまで選択肢が増えるということだと捉えれば良いと思います。DAOでは、ビジョンを中心としてコミュニティ機能や投票機能、トークン発行機能、プロジェクト運用機能、そしてファイナンス機能など、多様な機能を持たせることができます。これらの機能を提供するサービスがいくつもあって、組み合わせて利用することが多いので、自分たちで活用を検討する際にはそのような考え方を前提にして捉えれば良いのかなと思います」(遠藤氏)

「会社内であったとしても治外法権的にDAOを使えるかも」(byカンファレンス参加者)

 情報のインプットが終わった後は、参加者同士によるグループディスカッションの時間。リアル会場およびオンライン会場それぞれで3〜4人のメンバーでまとまり、「DAOを使って自分だったらどんなことをやりたいか」「DAOを使うにあたっての不都合や不安などは何か」という2つの議題でディスカッションをしていった。 20分程度の議論の後、会場からは以下のような意見・感想がシェアされた。

「企業活動の中でも新規事業を立ち上げる場合は、会社内でも同じ評価基準じゃなかったりするので、治外法権的にDAOを使えるのではないかと感じた」

「企業内DAOにて7:3で意見が分かれた際に、普通であれば7割の意見が採用されることになると思うが、結果として3割の意見にした方が儲かったとする、そうなると3割のメンバーとしてはショックなのではないかという話をした。その際に、賛同できない3割の人たちは、臨機応変にそのDAOを抜けて別のDAOを立ち上げればいいとのアドバイスをいただいて、たしかにそうだなと感じた。企業にいるとどうしても、一回決めたらそのまま行くというのが刷り込まれていたので、いいディスカションができたと思った」

「誰もが参加できる学びのDAOみたいなものはできそうだし、上意下達ではない組織も作れそうで、結果として組織のサイロ化みたいな課題も解決できるのではないかと感じた。また、誰がどうやって作ったら良いDAOになるのかや、参加した人の動機形成をどうしたらいいのかといった論点も出てきた」

新規事業やカルチャー変革、さらには学習支援など、様々な用途が考えられるDAO的コミュニティ

 続いては基調対話セッションとして、DAO総研 パートナーの藤野 貴教氏モデレーションのもとで登壇者全員によるパネルディスカッションが行われた。企業におけるDAOの活用用途や具体的なDAO運営事例の紹介、さらにはDAOを運営する上での実践的なアドバイス等について、各登壇者の立場からコメントがなされた。

 まずは企業内活動におけるDAOの活用について、各メンバーがそれぞれコメントした。

「一番扱いやすいのは新規事業かなと思ってまして、何かしらのやりたいことに対して組織横断で人が集まって活動するという部分が使いやすいのかなと思います。現に今、トヨタ自動車がハッカソンを開催しているのですが、そこでのテーマがまさに『企業内プロジェクト向けDAO支援ツールの開発』となっているので、足元の落とし所としてそこが使いやすいところなんじゃないかなと思います」(遠藤氏)

「新規事業という道が一つと、それこそカルチャー変革本部とか組織活性をやる部門とかがトークン等を使って制度とか評価へのチャレンジをする道もアリかなと。新規事業という攻めの部分にも使えるし、もしかしたらバックオフィス的な守りの部分にも使えるかもしれません。そういったところも積極的に取り入れてほしいなと、まずは思いました」(濱松氏)

「先日平議員のところに行って色々とお話を聞いてきましたが、冒頭のビデオメッセージでもおっしゃっていた通り、企業の人に使ってほしいと強くおっしゃっていました。新しいインセンティブ設計みたいなことがDAOとセットになっているとのことで、株式会社でいう新株発行みたいなものが、より私たちの使い勝手のいい形で可能になると。そうなるとやはり、新規事業での活用で有効なのかなと感じます」(清宮氏)

「もう一つ、学習コミュニティにも使えそうだなと感じました。実際に私が所蔵するチームでは、ものすごく早い動きでいろいろと学習に向けた取り組みを進めているのですが、それがそのメンバーだけに閉じてしまうことも多く、『このノウハウを他にも共有できたらよかったのに』というのが多々発生します。ですから、学習に対して何かしらの還元をしたらトークンが出るみたいな、そういう使い方もあるかなと思います」(渡邊氏)

藤野 貴教氏(DAO総研 パートナー)

 ここまでの意見を聞いた上で藤野氏は、これまでの企業内有志活動への支援の経験に鑑みて「企業内有志活動はDAO化していった方がいいと思う」とコメントする。

「僕は、現金という金銭的報酬に基づく人事評価システムがなくなるとは思っていません。一方で、暗号資産だけの世界になるとも思っていません。暗号資産と現金を対立軸におこうとするから、それが恐れを生み出して、攻撃の対象になってしまうんです。そうではなくて、どちらもパラレルに存在するということを前提に考えた方がいいです。現金に基づく人事評価報酬システムと、トークン設計に基づくインセンティブモデルが同時に走ったらどうだろうかって考えてみると、楽しくないですか?そうすると、たとえば企業内有志活動の動きなんていうのは人事評価とは直接結びつかなかったりすると思うので、結構やりやすいんじゃないかなと思います」(藤野氏)

MakerDAOから垣間見えるDAO運営のリアル

 続いての議題は、具体的にどのようなDAOがどんなトークン設計やインセンティブ設計をしているのか、という内容に移った。ここについては遠藤氏が、MakerDAOの事例を紹介しながら説明した。

「たとえばMakerDAOというDAOがあるのですが、ここはいわゆるステーブルコインという、ドルの価格と連動するような暗号資産(Dai)を開発しているプロジェクトです。このように“お金”を作るプロジェクトは非常にDAOとの相性が良いと言えます。基本的にDaiはプログラマブルなお金なので、ソースコードみたいなものがあるんですね。そのコインのソースコードをどういう風に運営して改変していくのかという意思決定をDAOでやっているわけですが、ガバナンストークンと呼ばれる投票権みたいなものをみんな持っていて、それによる投票を通じて各議題に対する意思決定を進めているわけです。投票の結果、ある案が可決されるとそのプログラムが更新されるみたいな感じの流れになっています。

これだけ聞くと直接民主的に動いている印象をもつかもしれませんが、実はそんなことはなくて、投票する人の割合は数%しかいないんです。投票権を持っていても、みんな投票しないと。すごく専門的なのでよく分からないし、自分ごとでもないんですよね。じゃあどうするかというと、間接民主制にするんです。“デリゲーター”と呼ばれる代議士みたいな人をDAOが雇って、投票を行わないガバナンストークンホルダーはデリゲーターに投票を委任するわけです。そうすると、結果として政党のようなものが出てくるなどして、中長期的には現在の政治の仕組みに近づいてくるわけです。結局やっているのは人間なので、人間が進化してきた過程と変わらないことが、今わかってきている実態だったりします」(遠藤氏)

 この辺りのデリゲーターやDAO運営の実態についてのお話は、以下のDAO総研インタビューでも語られているので、ぜひ併せてご覧いただきたい。

 この話を受けて藤野氏は、自身もFounderとして携わっているDAOが何プロジェクトかある中で、「DAOを身体的に理解するためには2つの道しかない」と強調する。

「Web3のビジネスでは特に『多くの人に応援してもらう』ことが重要になってきて、そのためにはパーパスが大事になってきます。これを僕はいつもドラゴンボールの元気玉に喩えて言っているのですが、パーパスの元に集まった元気がDAOのドライブに不可欠ということで、この循環を作る必要があるわけです。このことを身体的に理解するためには2つ方法があって、一つは自分が何かしらのDAOに実際に参加すること。もう一つは、自分がDAOを立ち上げることです。まずは前者について、『このDAOのパーパスが面白い』とか『Founderのこの人が面白い』みたいな感じで関わり始めるのがいいんじゃないかなと思います」(藤野氏)

「皆さんの中でやりたい学園祭は何ですか?」

 最後に、ラップアップとして藤野氏が「DAOは学園祭のようなものだ」と説明し、また清宮氏が「いずれにしても行動が大切だ」とコメントして、セッションをクローズさせた。

「先日ある方にズバッと言ったのは、『DAOは学園祭だよ』と。学校のクラスというのは基本的には教師の人を中心として中央集権的な仕組みでできていると思うわけです。もちろん、教師としては中央集権的な仕組みをしようと思ってやっているわけではなくて、クラスメイトの学びを最適化しようとしてそうやっているのですが、これが学園祭になると、途端に『パンケーキ屋さんをやる』とか『たこ焼きやさんをやる』という風に、それぞれのやりたいことに応じて勝手に自律分散でロールが動き始めますよね。売上についても、最後に経費を抜いた利益分をどうするかという話し合いが行われると思います。これがDAOそのものだと言いたいわけではないのですが、要するにこの話で伝えたいこととしては、同じ場所で同じ人といる状況なのに、こういった貢献欲求やエンゲージメントが高くなるシーンとそうでないシーンがあるということなんです。皆さんの中でやりたい学園祭は何なのかということ、そして皆さんが参加したい学園祭は何なのかということを捉えていただいて、実際の体験値をつかむことができたとしたら、もっと面白いんじゃないのかなと思います」(藤野氏)

「現時点では大企業としてはDAOみたいな話は遠いのかもしれないけれども、実はそんなに遠い話でもないのかもしれないとも感じています。いずれにしても行動が大事だということで、何かご一緒にやれる方がいるとすごくいいかなと思っています。ODNJでは今回のような最新のテクノロジーに関する情報のほか、海外からの最新情報なども含めて、これからの時代に合う内容を発信できたらなと思っています」(清宮氏)

編集後記

以前DAO総研から配信した武井浩三氏の動画で言及されている通り、組織と個人の関係性は中長期的に変わっていくことは自明であり、昨今のテクノロジーの加速度的な進化を目の当たりにすると、いよいよ個人のあり方が具体的に変わってくると同時に、組織のあり方も抜本的に変わる、というか、変わらざるを得なくなるってきたと感じています。そんな、個人的には血湧き肉躍る時代の中、ODNJでは実証的にDAOを運営し、体験知を高めながら “これからの組織” のあり方を模索していくとのことです。正解がないテーマだからこそ、ただディスカッションするだけでなく、実際に手を動かしてみた上での実証結果に期待したいと思います。

取材/文:長岡 武司

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