2023年2月7日、Googleが対話型AIサービス「Bard」をテスター限定で公開・発表した。
対話型AIサービスといえば、2022年11月にOpenAIから発表された「ChatGPT」のインパクトがちょうど世の中に認知されはじめたところ。文章の添削・要約から旅行計画の立案まで様々な活用方法があるということで、大変に盛り上がっている状況の中での発表であった。ChatGPTへの対抗馬ということだろう。
実はGoogleはBard発表の数日前に、2021年に1月に設立されたAIベンチャー・Anthropic(アンソロピック)への出資と業務提携も発表している。
この2つのニュースより、Googleはどのような戦略を描いていると想像できるのだろうか。そして、テック大手によるAI開発競争は、またしてもWeb 2.0時代のような「一部企業への富の集中」を加速させるのか。それとも、そのカウンタームーブメントとしてのweb3の動きが加速するトリガーとなるのか。
今回も、AIとweb3の動向に詳しいDAO総研 Co-Founderの湯川 鶴章氏が解説した。
本編:ChatGPT対抗馬としてGoogleが発表した「Bard」を解説!AIをめぐる戦いがweb3をさらに面白くするだろう
ChatGPTを超える可能性がある
今回でますます富と権力がテック大手に集中する
この3社が今首位の座を巡って火花バチバチで戦わせている
ChatGPTが今大きな話題になっているが
その中でGoogleが対抗馬を出してきた
ずっと「出してくる」と言われていたので、いよいよ来たかという感じ
僕はずっと「年内に出してくるだろうな」と言いながらも
まあ1〜2ヶ月で出してくるだろうなと思っていた
思っていたぐらいのタイミングで出してきたなという感じ
ChatGPTに対抗するAIモデルの発表とAnthropicへの出資
今回の動きは大きく2つ
1つは直接ChatGPTに対抗するAIモデル「Bard(バード)」を発表してきた
もう1つの発表がAnthropic(アンソロピック)というAIベンチャーにGoogleが3億ドル出資したということ
このAnthropicは、ChatGPTの基盤モデルである「GPT-3」を開発したチームが創業した会社だということ
相手の技術の中枢を持っている人間たちをGoogleが支援し始めたということ
これが面白いことかなと思う
「MicrosoftのGPT」対「GoogleのLaMDA」
基盤モデルと特化型モデルって何なんだということで
基盤モデルは超大型AI
作るのにめちゃめちゃお金がかかる
でもそれをベースに微調整するだけで、いろんな業種や分野の特化型モデルを無数に開発できる
ChatGPTはGPT-3という大きな基盤モデルを対話型に微調整しただけの特化型モデル
このように基盤モデルをベースにいろんな特化型モデルが出てくるというのが
これからのAIのパラダイムだススタンフォード大学は言っている
Microsoftの基盤モデルはGPTで、それを対話型に微調整したのがChatGPT
Googleの基盤モデルはLaMDA(ラムダ)で、それを対話型に微調整して今回発表したのがBard
MicrosoftとGoogleの環境おさらいすると
ChatGPTはOpenAIが2022年11月に無料公開した対話型AI
その性能に全世界が衝撃を受けているわけで
MicrosoftがこのほどOpenAIに数十億ドルの出資を決めた
今後Microsoft製品にChatGPTが導入されると発表している
またそれと同時に
Microsoftのクラウドコンピューティング・サービス「Azure(アジュール)」にChatGPTを乗せてくるので
一般企業がGPT-3を利用できるようになる
このChatGPTのすごい人気に衝撃を受けて、Googleが社内に緊急事態宣言を出した
BardとLaMDAがもつ3つの特徴
今回発表されたBardと、その基盤モデルであるLaMDAの関係について
2022年の6月ぐらいだったと思うが
Googleが「意識を持ったAI」を開発しているというニュースが流れた
Googleの研究者がLaMDAを使ったらあまりにも優秀なので
「これはもう意識を持ってるよ」「開発をやめたほうがいいよ」という風に経営陣に言ったところ
経営陣は「意識じゃないよ」みたいなことで却下した
それに怒ったその研究者がメディアにリークして話題になったという流れ
意識が宿ったか宿っていないかそれほど問題ではなく
それよりも「宿った」と思ったほどにすごい性能だということだと思う
実際にGPT-3とLaMDAの両方を触ったことがある技術者は
LaMDAの方が格段に上だと言っているから
BardがChatGPTを超える可能性がある
BardおよびLaMDAの主な特徴としては
まず、1つのテーマから外れることなく対話を続けられるということ
今までのチャットボットは質問を変えていくと話題がどんどんとズレていったりするが
Bard(LaMDA)は1つのことに集中して話してくるということ
例えば教育などはいいユースケース
1つの分野のことをとことん議論することで学ぶことができるということで
教育に向いている機能かなと思う
あとストーリー作りを支援するという機能もある
漫画を描いたり映画のシナリオを書いたり
ストーリーの骨組みだけをBardに投げかけると「こんなふうな状況はどうですか」という風に提案してくれる
そんなストーリー作りを支援するという機能がある
3つ目の機能としては、ユーザーが目標を達成するためのコーチのような役割をするというもの
「こういうことがしたい」ということに対して
「そのためにはこういう勉強をしましょうね」とか「こういうところを調べましょうね」とか
「いついつまでにこんなことをしましょうね」といったことを提案してくれる
これも教育とかスポーツとかに向いているのかな
これからいろんな特化型モデルが出てくるかと思うが
その基盤になるような存在がLaMDA
今回はチャットということで
1番目の特徴「1つのテーマから外れることなく対話」できるというのが
重点的に使われているんじゃないのかなと思う
GoogleがAnthropicに出資した本当の目的
それとは別にGoogleはAnthropicというAIベンチャーに3億ドルを出資した
AnthropicはMicrosoftが出資したOpenAIの基盤AIモデル「GPT」を開発した
チームが創業したベンチャー企業
Microsoftは前回の出資で10億ドルを出資したが
その時に離れた人たちが作った会社
なぜ離れたかという理由は
もともとOpenAIは「大手テクノロジー企業にAIを独占されないようにしたい」
それから「もっと安全なAIを作りたい」というようなことをずっと言って作られたチーム
だがMicrosoftが入ってくることによって、安全性よりも収益性の方に目がいくんじゃないかということで
何人かの技術者が離れたということ
だからAnthropicが作ってくるAIモデルというのは、より安全なAI言語モデルということ
ここでいう安全とは、差別発言をしないとかそういうことだと思う
技術的にはReinforcement Learning with Human Feedbackという技術を使っている
話せば話すほど内容が良くなっていくという技術
彼らも言語アシスタントという呼び方をしているが
「Claude(クラウド)」という対話型AIを作っている(参考)
Googleは自分たちでもチャット型AI/対話型AIを開発しているのに
なぜ別のチャット型AIを開発しているAnthropicに出資したのか
ちょっと不思議なところだが
Anthropicに出資したのは実はGoogleの本体ではなく、Googleのクラウドコンピューティングのチーム
そこが独自に出資したみたい
クラウドコンピューティングというのはテック大手にとってドル箱、一番儲かるところなので
それなりにお金を持っている
彼らの業績を上げる目的でいろんな企業に出資している
だから今回のAnthropicへの出資も、クラウドの業績アップが目的なんじゃないかなと思う
同じGoogleの会社なのでAnthropicの技術をBardに利用するという可能性はあるが
どうなるのかはまだ分からない
AIをめぐる三つ巴の戦い(Microsoft vs Google vs Amazon)
クラウドコンピューティングは押さえておかないといけない大事なこと
何度も言っている通りテック大手にとってのドル箱
例えばAmazonは収益のほとんどをクラウドサービスで儲けている
みんなAmazonと言えばamazon.comというECサイトで儲けているように思うが
あれはほぼ収益を上げていなくて
その代わりにAmazonのクラウドサービス「AWS」が儲けのほとんどを出している
だからテック大手にとってクラウドは非常に重要
MicrosoftはOpenAIと組んだ
Googleは独自技術を持っているし今回でAnthropicとも組んだ
MicrosoftとGoogleは共にAIをどんどんと導入してきているが
クラウドで一番前を進んでいるAmazonからのAIの発表は今のところない
この3社が首位の座を巡って火花バチバチで戦わせている
どんどんとAIを導入してきている
AIはFacebookとAmazonが手を組む夢を見るか?
ここは僕の“妄想シナリオ”で何の根拠もない話
いろんな人も言っていることだが
「CICERO(シセロ)」というAIモデルをFacebookが開発しており
これが研究者の間で非常に高評価を得ている
今のところFacebookがCICEROを公開するとかビジネスにするという話は表には出てきていないが
Facebookはクラウドコンピューティング・サービスを持っていないので
CICEROがあっても宝の腐れというか、それで収益を上げれるという状況ではない
一方でAmazonは現時点ではクラウド領域のナンバーワンではあるものの
MicrosoftとGoogleに追い上げられており、なんとかもっとクラウドに力を入れたいところ
ひょっとすると、クラウドを持たないFacebookとクラウドに力を入れたいAmazonが提携するんじゃないのかな
とかそんなことが起こるかもしれないなと思って
僕は注意深く見ております
これから2、3年は無数の目的特化型モデルが登場するのは
これでほぼ確定になった
ものすごい競争がこれからMicrosoft・Googleの間で行われるだろうから
値段もリーズナブルになってそれをベースにクラウドサービスを使って
いろんな会社が言語モデルのサービスを作ってくるんじゃないのかなと思う
これから2、3年は言語をベースにしたAIの時代が始まる
AIを使った「DAO運営ツール」がいろいろと出てくるはず
web3やDAOとの関連について
AIを使ったDAO運営ツールというものが色々と出てくるはず
今はAIを使ったツールというものはあまりないが
DAOはAIのツールがあればあるほど、もっと効率的に運用できるはず
だから新しいツールが出てきたらみんなどんどんと採用していくと思う
それでDAOがうまく運営されるようになってくるんじゃないのかな
AIツールを使って成果を上げるDAOがこれから増えてくるように思う
一方でクラウドコンピューティングのところにお金が集中するから
テック大手がますます強くなって、富と権力がますます集中するようになる
よって国家による規制が起こってくるだろう
今回のGoogleによるAnthropicへの出資に関しても
独占禁止法違反がないかを見ているような米政府の機関・FTC(連邦取引委員会)の前委員長が
「独占禁止法違反かどうかをFTCがしっかりと見るべき種類の事案だ」という風に言っている
政府はこれから、テック大手がますますAIで大きくなることに関して
何か行動を起こしてくるんじゃないのかな
もちろん草の根の方もそうで、web3というのはもともとテック大手への反発がきっかえ
テック大手がどんどんどんどんと強くなっていくので
「これはいけない」ということでweb3という運動が起こっているわけで
今回のGoogleの件でますます富と権力がテック大手に集中するからこそ
web3の活動も活発になってくるんじゃないのかなと思う
web3がどのようなツールを出してくるのか、どのような動きがあるのかを
これからウォッチしていきたいなと思う
以上です!