2023年4月14日から3日間にわたって開催されたグローバルハッカソンイベント「ETHGlobal Tokyo」。ETHGlobalシリーズの中でも初の日本開催となる本イベントでは、開発者をはじめ、起業家やデザイナー、研究者など、Web3領域に興味を持つメンバーが世界各国から1500名以上、会場の虎ノ門ヒルズに集結した(オープニングセッションの様子はこちら)。
中日となる4月15日(土)は、参加者がプロトタイピングに集中する傍らで、Web3にまつわる様々なトークセッションが開催された。今回はその中から、日本を代表する企業とブロックチェーンエコシステムの融合による未来を考えるセッションとして、同日午前中に行われた ”Enterprise Ethereum Stage” の様子をお伝えする。合計3つの小トークセッションに分けての開催となった。
パネルディスカッション①「製造・トレーサビリティ・分散型ID」
まずは「製造・トレーサビリティ・分散型ID」テーマのセッションということで、NTTデータ、日立製作所、富士通の各担当者を招いての事業紹介と意見交換が行われた。
NTTデータと日立製作所と富士通、それぞれの取り組み
NTTデータにて技術開発本部 イノベーションセンタに所属する山下氏は、2016年よりブロックチェーンのエキスパートとして、主に同社のエンタープライズ領域での先進事例開発に取り組んでいる人物だ。
国内におけるブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携プラットフォーム「TradeWaltz」や、イタリア(銀行協会)で展開している銀行間決済プラットフォーム「Spunta」など、国内外を問わず展開している事業に取り組んでいる。そんな山下氏は、昨今のエンタープライズ界隈におけるブロックチェーンの認識の変化について、以下のようにコメントする。
「これまでブロックチェーンというと、主に技術を中心とした話が多かったのですが、ここ1〜2年でWeb3が話題になる中でお客様との対話も増えてきており、技術以外のビジネストピック含め、これまでにない期待感が出てきている印象です。ただ、実際に取り組みとして浸透してきているのはまだまだ一部のビジネスリーダーと呼ばれる人たちだけでもあるので、まだまだ最初の一歩に過ぎないと考えています」(山下氏)
続いての登壇企業である日立製作所では、Lumada(ルマーダ)と呼ばれる社内横断型DXブランドを軸に様々な事業を展開している。その中でもブロックチェーン領域においては「PBI(Public Biometrics Infrastructure)」と呼ばれる、生体認証技術とPKI電子署名技術を融合させた公開鍵認証基盤をもとに、ソリューション事業等を展開している。
※全く別の媒体で筆者がPBIについて取材した記事がこちら。併せてご参照いただきたい
同社にてサービスシステムイノベーションセンタの主管研究員として活動する高橋氏は、入社以来、生体認証や暗号技術、情報セキュリティの研究開発および事業化、社会実装に従事し、近年はデジタルアイデンティティやブロックチェーンへと研究分野を拡大している人物。同氏は近年のブロックチェーンにまつわる課題として、大きく3つのポイントをコメントした。
「従来からのユーザー認証等よりも課題は大きくて広いと認識しています。まずは『鍵管理』について。Web3の世界では、ユーザーとしてはウォレットのアカウントがそのまま公開鍵みたいな世界なので、それに紐ついたアイデンティティも資産も、失った瞬間に全て失ってしまうことになります。DeFi(分散型金融)の普及に伴って、ここの課題に悩まれているお客様が増えている印象です。また『本人確認』領域についても、本人確認をやりつつ、利便性を高くして、かつプライバシーを守るというトリレンマをどうするかと言う課題があります。さらに『ウォレット』に関しても、現状では高次に使いこなせる人でないとWeb3の世界にそもそも入れないことから、包括性が課題だと感じています。私たちとしてはこれらを解決すべく、PBIという技術を使っています」(高橋氏)
富士通のデータ&セキュリティ研究所にて、2023年4月よりトラステッドインターネットPJのシニアリサーチャーとして活動する坂本氏は、分散型ネットワークセキュリティを専門とする研究者であり、2018年よりブロックチェーン等を活用した分散型アイデンティティを主軸に研究を進めてきた人物だ。
プロジェクト例としては、たとえば慶應義塾大学SFC研究所との共同で進めた、学籍証明書のデジタルアイデンティティーを相互連携利用する実証事業(画像左)や、インターネット上のデータの確からしさを汎用的かつ容易に確認できるようにする「Trustable Internet」に関する研究等が挙げられると言う(ホワイトペーパーはこちら)。主に前者の取り組みを通じた、アカデミアからの期待値等について、坂本氏は以下のように述べる。
「分散型アイデンティティに関しては、少しずつ世の中に入ってきているかなという印象で、SFC研究所以外にも様々な大学機関とTrusted Web実証事業等をご一緒しています。政府の方でも、たとえばTrusted Web推進協議会などに取り組んでいることから、政府側からも要望がおりてきていて、それ故にテーマとして重要になってきていると認識しています」(坂本氏)
一足飛びに社会実装が進むわけではない
ここまでの事業紹介を聞いていても、分散型アイデンティティへのニーズの高まりを感じることができるわけだが、その背景にあるのは企業の「セキュリティインシデント等への不安」があるのではないかと、モデレーターの石井氏は仮説を述べた。それに対して日立の高橋氏は、「そこがSSI(Self-Sovereign Identity:自己主権型アイデンティティ)やDIDが期待されている所以だ」としつつ、一方一足飛びに社会実装が進むわけではないことも説明する。
「SSIやDIDがドライブする要因としては大きく2つあると思っています。一つはレギュレーション(規制)、もう一つは、なんとかして新しいビジネスモデルを再構築していくことです。特に後者については、我々含めて皆さん苦労しているところです。DID等を通じてフリクションレスな仕組みが実現した時に、どんなビジネスをエコシステムとしてインプリメントしていくか。ここが突破口になると思います」(高橋氏)
新しいビジネスモデルについては、NTTデータの山下氏も「ビジネスモデルとしては常に仮説ベースでやっているので、ピボットを繰り返しており、いかに柔軟に変えていくかがポイントだ」とコメントしつつ、直近で可能性のあるテーマとして、法人が使えるウォレットの登場に期待を寄せた。
また坂本氏からは、昨今問題となっているフェイクニュースの話題が出され、ネット上に流れるデータをトラストできるものにするための仕組みとして「たとえばニュース記事などのデータに対して、“正しい”というお墨付き情報のアイデンティティをつけて流通させるような仕組み」の可能性が言及された。
パネルディスカッション②「ゲーム・アート・音楽」
セッション2つ目は「ゲーム・アート・音楽」テーマということで、スクウェア・エニックスとエイベックスでブロックチェーン事業に取り組むメンバーを招いての事業紹介と意見交換が行われた。
スクウェア・エニックスとエイベックス、それぞれの取り組み
スクウェア・エニックスにてブロックチェーン・エンタテインメント事業部を率いる畑氏は、もともとはコンソールゲームやミドルウェアを使ったソリューションの構築等をしていた人物だ。2012年に同社へと入社した後は、スマートフォン向けゲームやコンテンツ開発におけるテクニカルディレクターを経て、各プラットフォーム関連の交渉、対外折衝などを担う業務部に異動し部門長を経験。2021年10月には、同社初のNFTビジネスとなるNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」をローンチし、現在に至るまでプロデュースしている。
「こちらはLINE Blockchainを基盤としたNFTとなっていて、現在まででおよそ14万枚のNFTを発行・販売しています。来週木曜(4月20日)には、このデジタルシールを使ったゲームのリリースも予定しており、ゲームを進めていくことで、画像右上にあるようなパーツを集め、デジタルシールに合成することで、世界で1枚のキャラクターシールを作るといったものになっています」(畑氏)
また同社では、2023年3月より「SYMBIOGENESIS」と呼ばれるNFTコレクティブルアートプロジェクトも進めている。
こちらは10,000点のNFTキャラクターアートに無料のブラウザ向けコンテンツを加えるというもの。これにより同プロジェクトでは、提供されるメインストーリーの他に、一つひとつのキャラクターにもストーリーが与えられるという。プレイヤーはゲーム内世界において、隠された様々なアイテムを探し出したり、散りばめられた謎を解き明かすストーリーに挑戦したりするわけだが、その中でも特定の条件を満たした上位3名が、本コンテンツのエンディングに関わる重要な選択肢を握ることになるという。これまで数々のゲームタイトルを開発してきたストーリーテリングのノウハウをふんだんに活かしたプロジェクトと言えるだろう。
続いて、エイベックスにてテクノロジー顧問を務める岩永氏からも、同社が展開するブロックチェーン×エンタメに関する事業が紹介された。同氏は、もともと2019年にエイベックスの執行役員、およびエイベックス・テクノロジーズの代表取締役社長に就いていた人物で、 2022年6月の退任後はシンガポールに居住を移し、現在は分散型エンターテイメント・エコシステムの構築のためにMetaSolareを設立。共同代表及びCOO/Co-Founderとして就任している。
エイベックスが展開する「A trust」とは、デジタルコンテンツに対する所有権を保証する証明書サービスだ。「今でいうSBT(Soulbound Tokens)のようなものに2019年から取り組んでいる」と岩永氏。BtoBビジネスがメインのプロダクトで、現在に至るまで音楽専門NFTマーケットプレイス「The NFT Records」にて使われているという。
また、2020年より展開している「AssetBank」は、デジタルコンテンツを構成する楽曲や画像、イラスト、テキストといった各要素(デジタルアセット)の流通を促す契約システムである。たとえばダンスのモーション権など、従来であれば版権管理されないようなアセットについても、デジタルアセットとして管理してIPホルダーに還元されるような仕組みを目指しているという。もちろん、流通を司るには一社での取り組みには限界があることから、JCBI(Japan Contents Blockchain Initiative)と呼ばれるコンソーシアム団体にて2021年よりPoCを進めてきた背景があるとのことだ。
コミュニティの中の人をいかに「運用目線」にするかが大事
NFTをはじめとするデジタルアセットの流通を考える際に、日本と海外の法制の違いを理解した上で行動する必要があるのは当然のことだろう。たとえば歌手のRihanna(リアーナ)は、ストリーミング権の一部をNFTとして販売し、収益の一部がIPホルダーへと還元される仕組みを活用したわけだが、日本においては「投資」にあたる行為として金融商品取引法に抵触する内容と言える。
「Rihannaをはじめ海外の動向は常に注視しているのですが、NFTを買わせた時点で投資に該当しますし、音楽が売れた時にお金がもらえるという構造自体が、金商法に引っかかってくるところです。ここの部分が、今は難しいところだなと思います」(岩永氏)
ここについては、モデレーターを務める弁護士の河﨑 健一郎氏からも、以下のコメントがなされた。
「金商法がなぜあるのかというと、消費者保護のためです。大事なのは、自分が推しているアーティストの作品を少しでも所有する結果として、何かしらの配分が欲しいという需要がどれくらいあるかということです。もし需要がしっかりとあるのであれば、規制の方を少しずつ、新しい状況に適応する形へと整えていくことなのかなと思います」(河﨑氏)
今回登壇した2社のように、エンタメに対してブロックチェーンを積極的に取り入れようとしている会社ばかりでなく、そもそも取り入れること自体にネガティブな感情をもつ会社も多く存在する印象だ。様々な意見がある中で、たとえばゲームタイトルを考えた場合、「面白さがお金に置き換わることでゲームではなくなる」という批判もあるようだが、これについて畑氏は以下のようにコメントする。
「そのようなお話が出てくるのは、ブロックチェーンを使って、色々な人たちが“やんちゃ”しすぎちゃっているからだと思っています。そうではなく、もっと『ブロックチェーンを使えばこういう面白いことができるよ』ということを示していきたいです。来週、資産性ミリオンアーサーのゲームが出るわけですが、これはNFTを持っていなくても、ブラウザで簡単に遊べるようになっています。今のゲーム層出ない人達にも無料で体験してもらい、デジタルシールを作って販売できるようにしたら、ポイ活みたいな要領で少しでも興味を持っていただけるかもしれない。ここは、我々が儲けるのではなく、とにかく新しい体験を提供したいという一心で、日々経営そうとバチバチやりながら進めています」(畑氏)
最後に、これまでアーティストマネジメント等を主軸で事業展開をしてきたエイベックスとして、Web3領域におけるコミュニティのポイントについて、岩永氏より意見が述べられた。
「Web3コミュニティと、従来からのアーティストのファンクラブって、本質的に異なるものです。後者はどうしても一方的な情報提供になるのですが、Web3コミュニティになると、コミュニティメンバー一人ひとりが運営目線を持っているわけです。ここがこれまでにないポイントだと思っていて、それをファンクションにしようとなったとき、今の音楽業界の人としては感覚的になかなか分からないんだと思います。基本的に『全員を楽しませないといけない』と思っているのでしょうが、そうではなく、全員が運営目線を持つようにすることが大事でしょう。コミュニティの中の人をいかに運用目線にするか。これが大切なポイントだと思います」(岩永氏)
パネルディスカッション③「観光・地方創生・行政」
最後、3つ目のセッションは「観光・地方創生・行政」テーマということで、日本航空(JAL)と博報堂がプロデュースする「KOKYO NFT」と、デジタル庁が2022年12月に発表した『Web3.0 研究会報告書』について、各担当者を招いての事業・取り組み紹介と意見交換が行われた。
JALと博報堂が取り組む「KOKYO NFT」とは
KOKYO NFTとは、日本の各地域にある様々なアセットを活用し、体験型NFTとして提供・販売することで、国内外の関係人口創出を目指すというプロジェクト。未来の街づくりを目指した日本企業と国内外のスタートアップの事業共創を目指す「SmartCityX(スマートシティーエックス)」というプロジェクトに、JALと博報堂が参画したことがきっかけとなって立ち上がったものだという。
具体的に取り組みを進めている地域は、三重県鳥羽市と鹿児島県奄美市。鳥羽市のプロジェクトでは、同市が世界で初めて真珠の養殖に成功した町であることから、結婚30周年をお祝いする「真珠婚式」を体験できる権利をNFTとして販売している。また、奄美市のプロジェクトでは、特産品である黒糖焼酎樽のオーナーになる権利をNFTで販売。3年後に自分がオーナーである焼酎をオリジナルボトルで受け取るまで、毎年、オーナー樽の熟成過程を体験できるようになっているという。
このKOKYO NFTを実現するにあたって、NFTという技術を活用した背景や思いについて、JALの事業開発部に所属する高橋氏は以下のように説明する。
「NFTにした理由としては、コミュニティとの相性が大きいと感じたからです。人が何度もある場所に行くのには、何かしらの“理由”が必要だと思っていて、その理由として『人』は特に重要な要素だと考えています。旅をしている最中だけでなく、その前後でも人とつながることによって、地域に対する愛は大きくなる。コミュニティを通じて地域に対する愛がどんどんと深まるという仮説があったことから、今回の実証実験ではNFTを活用しました」(高橋氏)
一方で、NFTのような新しい技術を扱う取り組みについては、地域住民等の理解を得るのも難しいもの。この点について、JALと共同でKOKYO NFTに取り組んでいる博報堂のビジネスプロデューサー・岸井氏は以下のようにコメントする。
「今回の実証実験では、自治体と地場の企業が、主に大事なパートナーとなってきました。地場の企業の皆様については、後継者問題等の課題意識が高いこともあり、ブロックチェーン等の新しい技術に対しても非常に前のめりの姿勢で来てくれます。一方で地方自治体については、こういう話をしても『いつか誰かがデジタルで地域活性化をやってくれると思っていたら、博報堂さんとJALさんがやってきてくれた。よろしくお願いします」みたいな姿勢であることが多いです。もちろん、今ご一緒している鳥羽市さんと奄美市さんは違うのですが、そういったケースもたとえばの話としてあるわけで、ここに非常に大きなギャップがあると感じています」(岸井氏)
『Web3.0 研究会報告書』におけるデジタル庁とデロイトトーマツの視点
行政サイドのWeb3動向についても、ここ1年の動きが非常に活発だ。契機となったのは、2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(通称:骨太方針2022)だろう。こちらの[第2章 2-(3)多極化された仮想空間へ]にて「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める」と記載され、初めて「Web 3.0」という言葉が盛り込まれる形となってから、経産省では「大臣官房Web3.0政策推進室」が設置され、デジタル庁は「Web3.0研究会」を発足させた。もちろん、それまでの内閣官房による「Trusted Web推進協議会」といった取り組みも、継続的な活動として続いている。
本セッションで登壇する野崎氏は、デジタル庁の中でもWeb3とAIを担当している人物だ。2022年夏に現職へと着任後、10月よりWeb3.0研究会が発足し、12月には『Web3.0 研究会報告書』を発表するに至ったという。ここ最近の中央政府のWeb3にまつわる動向について、野崎氏は以下のように思いを述べる。
「去年4月に自民党が『NFTホワイトペーパー(案)』を出し、日本をWeb3立国にしていくという機運が高まりました。それ以降、政府においてもそのメッセージを受け止め、健全なWeb3の発展に向けた環境整備への議論をすることになりました。日本では地方における人口減少や社会課題がたくさんあるのですが、その一方で様々な有望なコンテンツもあります。そういったものをWeb3のテクノロジーを使って発展・改善できないかという議論をしていきました。特にトークンを使ってインセンティブを細かく設計できるということで、今までにない人間関係の創出やコミュニティでの設計も含めて、日本が抱える社会課題をどんどんと解決できるのではないかと、政府としては期待しています」(野崎氏)
またWeb3.0 研究会報告書の作成にあたり、事務局として携わったデロイトトーマツ グループの川口氏からは、「テーマのカバレッジの広さ」と「規制を考える側の熱量や思い」という2つのポイントが、制作にあたっての留意点として語られた。
「まずはテーマのカバレッジの広さということで、調査の対象として、NFTのようなデジタル資産の他、DAOやDIDなど、今後数年かけてどうなっていくかというテーマも含めて議論するようにしました。また、規制を考える側の熱量や思いについても言及したいと思いました。たとえばシンプルな例として“道路”を考えたときに、車が走らないことには仕方がないが、一方で渋滞や事故があってもダメですよね。このバランスが非常に難しく、日々、喧々諤々の議論をしております。本当に難しい舵取りの中で、大きなテーマの中で有識者会議も毎週のように集まって議論していました。このように、ルールメイキングを進める中で、両輪を見ながらバランスをとって報告書としてまとめていけたことで、色々なシーンにおいて参照する価値のあるものになったのかなと思います」(川口氏)
Web3の世界観の中で政府が果たすべき役割とは
ここまでのお話を前提として、モデレーターである河﨑氏からは以下2点の質問が投げられた。
- 報告書でも言及がなされている匿名ウォレットは魅力があると同時に、懸念点もあるが、そこに対してどう思うか?
- 自律分散というWeb3のカルチャーを、中央管理者である政府が進めようとしていることの矛盾への指摘があるが、そこをどのように捉えているか?
これについて、野崎氏は、「Web3の世界観は、匿名性をもって全世界でつながり、それぞれインセンティブをもってテクノロジーを使って活動する」ことであるとの前提を説明した上で、それぞれについて回答していった。
「前者について、いろいろなアイデンティティやウォレットに対してどうトラストを付加していくのかというところで、ナショナルトラストアンカーとして政府がどういう役割を果たしていけるかが一つの検討課題だと思っていますし、そこでマイナンバーカードや電子認証システムをどう利用していくかも、今後の検討課題かなと思っています。
また後者についてですが、政府だけということではなく、政府もコミュニティの一員となって、それぞれのステークホルダーがそれぞれの役割を果たしていくことが大事だと思っています」
ここで語られたマルチステークホルダープロセスによる具体的な取り組みとして野崎氏が挙げるのが、2020年6月に立ち上がったブロックチェーンに関する国際ネットワーク「BGIN(Blockchain Governance Initiative Network)」だ。日本における金融庁のような規制当局はもとより、民間企業やアカデミア、エンジニアなど、ブロックチェーンにまつわるマルチステークホルダーが集まり、オンライン/オフラインでブロックチェーンにまつわる諸問題の解決に向けた取り組みを進めているという。また、Web3.0研究会内でも独自にDAO(Web3.0研究会DAO)を立ち上げ、コミュニティ内で様々なコミュニケーションを始めているとのことだ。
最後に、JALの高橋氏より、実際にWeb3プロジェクトを進める立場として感じていることがシェアされて、セッション終了となった。
「NFTやWeb3の話は、往々にしてデジタル空間に閉じこもった話になりがちです。一方で、私たちが取り組んでいるプロジェクトは、デジタル空間に留まらず、最終的にリアルな場所やフィジカルなコミュニケーションなどにつながってきます。匿名の世界でやっていけるものをリアルの世界でどうするのかについては、当然ながら難しさや課題が沢山あるのですが、やってみないと分からないことも多いと思っています」(高橋氏)
取材/文:長岡 武司
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