議員初のSBT配布など「技術を使い倒す」姿勢が大事。平将明議員×岩瀬大輔氏トークセッション 〜NFTokyo2023 レポート#2

 2023年6月22日に東京国際フォーラムで開催された、国内最大級のNFTカンファレンス「Non Fungible Tokyo 2023」(以下、NFTokyo2023)。当日は国内外より様々なステークホルダーが参加し、セキュリティやメタバース、レギュレーション、コミュニティ運営など、NFTにまつわる様々なテーマでのセッションが展開された。

 第二弾レポートでは、「Web3プロジェクトに対する規制と市場サポートは?- 日本の政治家、世界のオピニオンリーダーによるスペシャルセッション -」と題されたセッションについて見ていく。

登壇者

  • 平 将明(衆議院議員)
  • 岩瀬 大輔(Animoca Brands Japan)
  • 馬渕 邦美(PwCコンサルティング)※モデレーター
目次

いわゆる「渡辺創太問題」の次の課題とは

 登壇者の一人である平氏と言えば、自民党デジタル社会推進本部(本部長:平井卓也衆議院議員)にて「NFT政策検討プロジェクトチーム」や「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」の座長を務め、国内のテクノロジーに関するレギュレーションの最前線にいる人物だ。

 前者の活動については、2022年3月に提言として発表された「NFTホワイトペーパー(案)」が非常に印象的だ。「Web3.0(ウェブスリー)時代の到来は日本にとって大きなチャンス。しかし今のままでは必ず乗り遅れる。」という冒頭の文言と共に、危機意識を強く持ちながら日本のWeb3展開への可能性を見出していた。それから約1年後の2023年4月には、新たに「web3 ホワイトペーパー(案)」を発表し、「JAPAN IS BACK, AGAIN」という見出しタイトルと共に、昨今のグローバルレベルでのクリプト・ウィンターの中での日本のポテンシャルが言及された。

 特に2022年に力を入れて取り組まれたのが、いわゆる同氏が「渡辺創太問題」と表現する、法人のトークン保有にまつわる期末課税問題だ。自社発行のガバナンストークンであるか否かにかかわらず法人が保有する暗号資産を期末時価評価で計算することとされていることから、渡辺創太氏のように、より税制面でメリットのあるシンガポール等諸外国へと起業の地を選択してしまうという問題だ。2022年7月14日に開催された「Metaverse Japan Summit 2022」(主催:一般社団法人Metaverse Japan)にて平氏は「税金も年に一回しか議論できないので、ガバナンストークンの時価課税問題や暗号資産の最高税率問題など、この年末で進めなければいけない」と強調していたが、これについては数日前に「なんとか解決」と同氏がツイートしているとおり、まずは自社発行分の暗号資産については時価評価の対象から正式に除外されることとなった。国税庁が2023年6月20日に「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」を発出し、その中の法人税基本通達関係において改正対象に含まれることとなった。

「世界はクリプト・ウィンター真っ只中ということで、たとえばアメリカの規制強化は若干常軌を逸しているんじゃないかと我々から見ても思うわけですが、その中で我々としては、ブロックチェーンの本質を見ながら日本の価値を最大化するということをしっかりやっていこうと打ち出しているところです。あとはメタバースもありますし、AIも当然絡んできますし、セキュリティートークンみたいな機能の話もあるので、網羅的に見ながら全体的な規制のデザインをやっていくと。あと今回はできなかったのですが、DAOの法制化を議員立法で取り組もうということで、金融庁や経産省とかと色々とやっています。ただ、このDAOの特性をうまく活かして既存の法律にはめるというのはすごい難易度が高いなと。そんなことを最近はやっております」(平氏)

海外のスター級プレイヤーに日本の魅力を感じてもらうためには

 2023年4月よりAnimoca Brands株式会社(以下、アニモカジャパン)のCEOに就任した岩瀬大輔氏は、かつてライフネット生命保険の共同創業者であり元取締役会長を務め、また香港の生命保険会社であるAIAグループの本社経営会議メンバー兼 Group Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)も務めていた人物だ。最近では、香港を拠点とするNFTプラットフォーム「KLKTN」の創業者でもあり、アニメや漫画、音楽等の領域にも精通している。

 そんな岩瀬氏は、民間企業の視点から、ここまでの平氏の活動について以下のように補足する。

「世界的な規制環境が全体的に反クリプトになっている中で、それまで若干窮屈に見えていた日本の規制環境が、その予測可能性と透明性が最も大事なところであるとして、平さんをはじめテクノロジーも分かって国際感覚もあるチームが、かなり積極的に推進していこうという感じがあります。この安心感なるものが、事業者側にとってものすごく大きいんじゃないかなと思っています。アニモカ本社も、日本にかなり力を入れてやっていこうとなっています」(岩瀬氏)

 岩瀬氏の就任に併せてアニモカジャパンでは新体制を敷き、現在3つの重点分野で事業を進展させているという。まずは、集英社や講談社など日本の主要なIPホルダーと連携して、Web3サービスを通じて世界中のアニメやゲームIPのファンに新たな形でコンテンツを提供するという事業だ。また三菱UFJ銀行との戦略的パートナーシップをコアとして、三菱UFJ銀行の企業クライアントの資産価値をWeb3サービスを利用して向上させていくことも、大きな柱の一つになっている。さらに、アニモカ本社が強みとしている領域として、トークンの発行支援もアニモカジャパンで強く推進していくという。Web 2.0領域の企業がWeb3化する過程でのトークンの設計や発行の実務、あるいは自社でのトレーディングなどを含んで日本で展開をしていくという。

「海外のスター級のプレイヤーたちがもっと日本で過ごしたい、あるいはアジアの拠点をシンガポールじゃなくて日本に移したいと考えるにはどうしたらいいのか。そういうソフトパワーみたいなところがますます大事な気がしているので、その観点でもっと工夫があってもいいなと感じています。たとえばこういうカンファレンスについて、もっと政府にスポンサーをしていただくとか、色々な形で官民一緒になって推進できたらいいなと思っています」(岩瀬氏)

多少の痛みを伴う実構築の段階に入り始めた

 Web3の特性をビジネスに活かしていくにはどうしたらいいのか。これについて岩瀬氏は、「今までは誰も損しない形で済むようにやろうとしていたが、いざ本当にやるとなると、これまでのビジネスの考え方ややり方を変えていかなければいけないフェーズに入っている」と説明する。

「例えば、我々アニモカ傘下に『TinyTap(タイニータップ)』という教育プラットフォームの会社があるのですが、もともと数百万世帯で使われていた未就学児童向けの教育ゲームをWeb3化して、世界中の先生たちがクリエイターになってコンテンツを発信できるようにしました。例えばセサミストリートのようなIPを使ってゲームみたいなものを作れるようにしているのですが、この話を日本の出版社さんにすると、『編集がうちらの仕事だから、そこを持っていかれちゃうと自分たちの役割がわからなくなってしまうからもう少し考えたい』と言われました。でも、本質的には編集の役割も再定義しなければいけなくて、今までは中央集権的にコンテンツを作って発信していたものを、これからはたくさんの人がコンテンツを作る原材料みたいなものを作り、且つそれを展開できる舞台を作るというのが、もしかしたら出版社さんの役割の一部になるかもしれないと感じています。こういうビジネスモデルだとかの考え方の転換をしなければいけないところに、まだまだ課題があると思う一方で、各社さんが少しずつ進めていき、多少の痛みを伴う実構築の段階に入り始めたんじゃないかと考えています」(岩瀬氏)

 また同氏は、そのようなフェーズの変遷に付随して、より多様な人材が協働することの重要性も説明する。

「これまではWeb3とWeb 2.0がコンバージェンスしていない感じがあって、Web3の我々だけが小宇宙で生きてきた感じがあるんですね。そこに大企業の皆さんが少しずつ入ってくださろうとしていて、もっとメインストリームな業界から優秀な人材が流れてくる必要があると思っています。もちろん、これからのマスアダプションに向けては、マス向けのビジネスをやってきた企業だけじゃなくて、いろんなタレントがさらに入ってくるというのがすごく大事なんじゃないかと思います」(岩瀬氏)

 多様なメンバーとの協働については、平氏もホワイトペーパーの作成を通じて実感しているという。

「ホワイトペーパーを出していることで世界中からいろんな人が会いに来てくれますけど、AIに着手したのは今年に入ってからですし、Web3も去年1月ぐらいからなんですよね。ただ、私の周りにはスタートアップの経営者とかいろんな人がいて、その人たちとメッセンジャーとかで常時つながっているわけです。昔みたいに場所と時間を決めて何ちゃら審議会ですみたいな形で集まらなくても、24時間議論できるわけですし、外の弁護士チームと組んでわずか2ヵ月でホワイトペーパーの作成もできてしまいます。コツさえ掴んでしまえば、日本は結構うまくいくんじゃないかなと思います。あと、日本大好きって人は、大変有難いことに世界中にいっぱいいるわけです。日本のゲームメーカーがつくる世界はすごいし、たとえばガンダムもメタバース空間を作ると聞いていますし、AIのアバターも入ってくる。今まで日本が頑張ってきたことを集結させて、新たな価値を爆発的に生み出すチャンスを外国の人たちにも実感してもらうことが大事だと思っています」(平氏)

テクノロジーとの向き合い方という命題自体は、どんな時代であっても変わらない

 AIについてはChatGPTへの注目を皮切りに国内外各所で話題となっており、人々の職を奪うテクノロジーだという論調も、ここ最近になって再度増えてきている印象だ。特に生成系AIの直近のインパクトとしてクリエイターへの影響が懸念されている状況だが、これについて岩瀬氏はどう考えているのか。

「アニモカ本社の方がかなりゲームを作っているので、ゲームのコアじゃないところのコンテンツづくりに積極的にAIを使っていて、いろんな実験をしています。まずは省力化や圧倒的なコストダウンがフェーズ・ワンかもしれなくて、次にクリエイティビティの部分にどこまでAIが入ってくるかかなと感じています。やはり人か機械かという議論ではないと思っていて、人が機械を使いこなして新しい表現手法を見つけていけばいいのだと思っているので、ものすごく風景が変わってくるんだろうなと。ただその一方で、テクノロジーといかに向き合って使いこなすかという命題自体は、どんな時代であっても変わらないとも思っています」(岩瀬氏)

 また平氏は行政サイドとして、昨今の安易なAI禁止の動向に懸念を示す。

「たとえば学校でAI禁止しろとか言い出す人がいますが、昔僕らが大学生の時も六法全書や教科書が持ち込み可で試験とかをやっていたわけで、子ども達にもAIやスマホの持ち込み可で課題を与えて、危ないところもいいところも一緒に育ってもらい、他の能力を磨いていくというのがものすごく大事だと思っています。もちろん、AIを使って悪いことをしようとする人は必ず出てくるわけですが、ちゃんとそれをアンダーコントロールにするためにはより良いスペックで上回るAIがなければいけないので、そういう基本的なところを見ながら、人材育成とかを進めるべきかなと思います。我々は、日本政府がAI/技術を使い倒すという方向で現在鍛えておりますので、そういう風にやっていきたいなと思います」(平氏)

 平氏は本カンファレンスの翌日に、日本の国会議員では初となるSBT(Soul Bound Token/ソウル・バウンド・トークン)を使った応援団会員証の配布をスタートさせている。SBTとは、公的に検証可能な譲渡不可のトークンのことを指し、コミュニティにおける評判・信頼といった人間関係を形成したり、中長期的なデジタルアイデンティティへの応用が期待されたりしている技術である。詳細は、2022年5月11日にイーサリアム(Ethereum)の提唱者、ビタリック・ブテリン氏が発表した論文「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」をご参照いただきたい。

平氏は現在、自民党員の入党手続きにeKYCを導入する実証実験を実施しており、党員申込みが完了された人限定で、平氏のキャラクター「タイラくん」のSBTが配付されるようになっている。配付するSBTは1000個限定の先着順になっており、受け手としてはガスレスで発行可能となっている。なお、今回配付されたSBTを獲得したメンバー限定のイベントが2023年9月に開催予定とのこと

 以前DAO総研が取材した組織開発領域のカンファレンスで、「テクノロジーの利用については、実際に使って行動してみることが大事」との話があったが(開催レポートはこちら)、今回のSBT配布はまさに「まずは使ってみる/提供してみる」姿勢の一例と言えるだろう。最後に平氏は、以下のようにコメントしてセッションを締めた。

「AIもWeb3も、ホワイトペーパーに書いてあることをどうやって実現するかということで、決めるのは官僚でも役所でもないんですよ。やっぱり政治家なんですよ。もちろん、政治家と言っても民主主義なので、突き抜けていかなければいけない。じゃあどうやって実現するの?と突き詰めると、私が政治力を持つしかないってなるので(笑)、ぜひ皆さん応援していただければと思います」(平氏)

取材/文:長岡 武司

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この記事を書いた人

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