NFTの未来は「長時間楽しめる設計」と「より魅力的なX to Earnモデルの設計」にあり

 ブロックチェーン技術を活用して「コンテンツの非代替性」を担保する仕組みとして注目されるNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)。イーサリアムのスマートコントラクト機能に代表されるプログラマビリティ性によって、所有権の証明が必要なあらゆるコンテンツの流通シーンでの活用が期待されている技術であり、デジタル空間はもとより、リアル空間でのビジネスにおいても活用が進み始めている状況だ。

 例えばハイブランドでは積極的にNFTを活用しており、LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)では2021年8月に作中にNFTアートを組み込んだゲームアプリ「LOUIS THE GAME」をリリースしている。また。同じく有名ブランドのDOLCE&GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ)は「Collezione Genesi」というNFTコレクションを発表し、総額約6億円で落札されている。

 このように大手ブランドがNFTを活用したビジネスへと進出する中、リアルビジネスにおけるNFT活用はどのように進化していくのか。その中で日本は、どんな領域に活路を見出すべきなのか。今回は、ブロックチェーンやスマートコントラクトの社会実装の専門家である、SingulaNet株式会社 代表取締役社長 町 浩二氏にお話を伺った。

※記事末にインタビュー動画もあります。気になる方は、ぜひ併せてご覧ください。

目次

本格的にブロックチェーンのビジネス実装が加速した2022年

インタビュイー:[左]町 浩二氏(SingulaNet株式会社 代表取締役社長)、[右]インタビュアー:湯川 鶴章(DAO総研 Co-Founder​)

 町氏が代表を務めるSingulaNet株式会社は、コンテンツ産業におけるブロックチェーン技術の活用に着目し、ビジネス開発やそれに付随するシステムの構築等を行うスタートアップ企業だ。

 2017年より同氏が深めてきたブロックチェーン技術に関する研究内容を体系的に整理・蓄積し、「ブロックチェーンに保存されたデジタルコンテンツの再編集方式」や「安全でユーザ負担の少ない秘密鍵の管理方式」などの特許を取得。イーサリアムをブロックチェーン基盤として採用し、2020年にはコンテンツを対象とするNFT「Content-NFT」の基礎技術の開発を終え、2021年秋にはそのリファレンス実装のソースコードをオープンソースプロジェクト「Content-Ethereum(C-ETH)」(現Sanpō Blockchain)に寄贈もしている。

 当初は研究開発を目的に創業されたSingulaNetだが、昨今ではブロックチェーン技術そのものやNFT等を活用したトークンエコノミーへの注目度の高まりも相まって、社会実装に向けた様々な取り組みを他社との協働を通じて推し進めている状況だ。

2021年6月に発表された博報堂との共同事業では、エンタメ分野のD2Cサービスでアーティストのファンコミュニティ活動を支援する新しいマネタイズプラットフォーム「ライブ TVショー」を構築。アーティストがNFTを発行することで、ファンとのコミュニケーションチャネルを創出し、またマネタイズ手段の選択肢にもなるようなクリエイターエコノミーの仕組みとして機能している

 2017年からトークンエコノミーの様子を見てきた町氏によると、2022年は本格的にブロックチェーンの社会実装と実ビジネスへの応用が始まった年だと言う。

「2021年は本当に実験としてマーケティングでやっていたというのが実態だと思うのですが、今年に入っての動きはマーケティングとしての施策・実験ではなく、実際に商売の可能性を見出しているというフェーズに入ってきていると認識しています。例えばティファニーでも、CryptoPunks(クリプトパンク)という有名なNFTシリーズの所有者に向けてブランド初のNFTコレクションを発表し、ものの数分で15億円ほどの売り上げを計上しています」

 NFTが実ビジネスとして注目されている背景には、「暗号資産(クリプト)のセグメントですでに新しいお金持ちの層が誕生している」ことが大きいと、町氏は続ける。

「もしもお金持ちがいない状態だったら、ハイブランド企業が新しい商品をその人たちに向けて発売して相応の売上をあげるという世界もなかったはずです。すでに本当にお金持ちがいて、十何億という高価な物が売り上げられるということが証明された世界が今なんだと思います」

「何もしないでもEarnできる仕組み」に向けたNFT活用

 町氏によると、今後のNFTの活用ポイントとしては、大きくは以下の2点があげられると言う。

  • 長時間楽しめる設計
  • より魅力的なX to Earnモデルの設計

 まずは前者についてだが、NFTと聞くと、プライマリセールスの初日で売り切れるという「一発売り切りモデル」をイメージする方も多いのではないだろうか。例えばTwitter創業者であるジャック・ドーシー前CEOによる初ツイートのNFTがオークションに出品され、2021年3月に291万5,835ドル(約3億1640万円)で落札されたことは、NFTのある側面である“投機性”を象徴する出来事として記憶に残っている方も多いのではないだろうか。

 しかし、同NFTはその後価格が上がるどころか、99%以上の値下がりを記録。2022年4月にオークションにかけられた際には最高額が約1万4,000ドル(当時約200万円)までしか上がらず、販売そのものが中止されたのだ。(下はオークションにかけられた際の購入者のツイート内容)

 奇しくも、ドーシー前CEOの初ツイートNFTは、NFTバブルを象徴する存在となっただけでなく、急激なNFTバブルの衰退を象徴する存在ともなったわけだ。

「現在は、“一発売り切りもの”のNFTは難しいというのが、共通の理解になってきています。ジャック・ドーシーのツイートが暴落したのも、購入した人がその後ワクワクするようなイベントが何もなかったというのが、大きな要因だと思います。今後はストーリー性がある、長く時間をかけて楽しめるようなプロジェクト型のものとして販売し、中長期的にはアニメやゲームなどのIP(知的財産)として自分で二次利用できるようなものの方が、ニーズとしては大きくなるでしょう」

 一方で、町氏がもう一つのNFT活用ポイントとして期待するのが「X to Earn」モデルだ。

 X to Earnとは「Xを行うことで稼ぐ」という意味を表すWeb3用語で、Xには「Play(遊ぶ)」や「Move(動く)」、「Sleep(眠る)」など、様々な動詞が入ることになる。例えばPlay to Earnとしては、プレイすることでユーティリティトークンやNFTアイテムの獲得・販売ができるようなブロックチェーンゲームが該当するだろうし、Move to Earnの例としては、かつてWeb3界隈を席巻した「STEPN(読み方:ステップン)」などが挙げられるだろう。

 ここでご紹介したPlay to EarnやMove to Earnは、トークンやその先のお金など、各種インセンティブを目的にした“何かしらのアクション”を人々が起こす必要があるわけだが、そうではなく、「何もしないでもEarnできる仕組み」に向けて、NFTを活用でき得るのではないかと町氏はコメントする。

「例えば、“再販利用券”があるキャラクターのNFTを考えてみましょう。仮にそのキャラクターを使った映画を作りたいという会社が出てきたとしたら、購入者にはそのキャラクターのNFT保有量等に応じた著作権料などが入ってくるというスキームが考えられます。これまでは大手の編集社などの企業が収益分配の対象だったと思いますが、それが個人にも入ってくる可能性があるわけです。もしもそういう形での成功例が出たとしたら、それは凄いねということで、同じようなスキームのプロジェクトが増えてくることでしょう」

 このように考えると、これまでのように著作物の所有者がガチガチに自分の権利を守ろうとするのではなく、よりオープンに「好きに使ってください」という姿勢でいる方が、Web3の世界では収益的にもより大きくなるのかもしれない。

良いコンテンツを作るためには、リアルで活躍する人材の引き入れが不可欠

 NFTを活用したビジネスには様々な可能性がある一方で、その進め方には注意も必要だと町氏は強調する。トークンということでビットコインのような金融機能をもつFungible Token(代替性トークン)のようなものをイメージする方がいるかもしれないが、NFTには代替性/非代替性という機能の違いの他に、動画やアートといった現物のコンテンツそのものも必ず付いてくることを忘れてはいけない。つまり、Web 2.0の世界と同じ「コンテンツ業界としての動き」が必要になってくることが前提になるという。

 そうなったときに必要なのは、ブロックチェーンを活用したトークン技術に長けたエンジニアはもちろん、コンテンツ制作をするアーティストやマーケター、コミュニティマネージャーなど、いわゆるコンテンツ産業で活躍しているメンバーだ。

「コンテンツとして良いものを作る人たちが、本腰入れてジョインしたいと思ってくることと、それをしっかりと告知してコミュニティを運営する人たちがいること。そういう複合的な要素が必要になってくるでしょう。NFTに関してはインフラだけの産業ではないことから、リアルビジネスの世界で成功している人たちが、いかに活躍できるかがポイントになってくると思います」

 もちろん、コンテンツの流通で重要な真贋判定(本物であることの証明)については技術的に担保をする必要があるので、ここはエンジニアがどっぷりと開発を進めるべき領域となる。SingulaNetでも、物理的に存在しているモノについてNFTを使って本人証明をするという機能を付け加える取り組みを、とある企業と非公開で進めているという。

 この機能の社会実装が進めば、例えばブランドにとっての「攻撃的な守り」として、偽造が難しいデジタルな仕組みとして一気に普及が進むことだろう。

「今はまだNFTは好きな人だけがやっている世界だと思いますが、もし社会に『モノが本物かどうか』をNFTで証明するという文化を根付かせることができたら、一気に当たり前になってくるでしょう。みんなの意識が変わるポイントは、そんなに遠くない未来に到達するのではないかと思っています」

 昨今のFTX破綻に伴うクリプトウィンターの長期化時勢だからこそ、本質的なインサイトに沿ったブロックチェーンの実装が進むことが期待されている。現に、一昔前であれば圧倒的に使いにくかったクリプト関連プロダクトのUI/UXが、物凄い勢いで改善されている印象だ。

 SingulaNetが進めるコンテンツ産業でのトークノミクスの未来も、引き続き注視していきたいと思う。

★インタビュー動画

★ポイントをまとめたショート動画(2本)

取材:湯川 鶴章
文:長岡 武司

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この記事を書いた人

人ひとりが自分な好きなこと、得意なことを仕事にして、豊かに生きる。 そんな社会に向けて、次なる「The WAVE」を共に探り、学び、創るメディアブランドです。

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